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小説 ただひと  EP30 レクイエム (4)

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 EP30 レクイエム (4)

 

ヘリオスはまだ自分の人形相手に苦戦していた。攻撃を防ぐばかりで仕掛けることができない。ルミエールも同様なようで、自分の人形の攻撃で後退していた。

「くそー、なんで俺を俺が攻撃しないと行けないんだよ。まるで自分の影相手に剣を振るっているみたいだ。おいヘリオス、敵を交換しないか?」

「え?」

「お前の弱点はお前には見えないだろうけど俺には見えてる。お前もそうなんじゃないのか?」

ルミエールの言葉に彼はハッとした。たしかに自分の弱点には気付けないのに、他人の弱点はすぐに気付くし目につく。だからそれでいつも敵を倒してきたが、実は肝心の自分について盲目だったことに気づいた。ヘリオスは途端に勝機があるように思えてきた。

「分かった、ルミエール。じゃあ、お互いの弱点を教え合おう。この人形をルミエールに倒させたらかわいそうだから」

「ま、俺もお前に自分を倒されたらあんまり良い気はしないか。よおし、じゃあいいか。ヘリオス。まずお前は剣を振るう時重心が右に偏りすぎてる。だから左足だけで立った時一瞬不安定になるんだ。その時に二回攻撃しろ。1回目はフェイントだ。ただでさえ不安定な体制がもっと崩れる。そして崩れた時を狙って2回目の攻撃を仕掛けるんだ」

ヘリオスはルミエールの言葉に驚いた。自分にそんな癖があったなんて知らなかったからだ。そしてそう言われた瞬間から人形の動きに隙が見え始めた。

「じゃあルミエール。俺からも言うから。ルミエールは剣の振り方が大振りだ。体全体で振るうから、振った後の脇がガラ空きだ。防御すらできていない。その時に攻撃すればダメージを与えられるはずだ」

「ちっ、よく見てんじゃないか。全く…仲間でよかったぜ」

ヘリオスとルミエールはそれぞれの弱点を把握して剣を振るった。まるで鏡のように防がれていた攻撃が見事刺さった。そして人形達がよろけた所に互いが必殺技をくりだし人形達はオリジナルを前に倒れた。

「よし!」

ヘリオスとルミエールは互いの拳を合わせた。

ソロンは一人で何人も相手にしていたせいか、疲れを顔に滲ませていた。人形達は全て倒れ、バリアも何度も貼り治したせいで体力を消耗している。

アウダスは走り出すと剣を彼の頭上から振り下ろした。すぐにバリアに弾かれる。彼はソロンの注意がセレーネから自分に向くようにあえて囮となっている。その隙にセレーネはバリアを無効化する術の詠唱に入った。

「ソロン、お前は何のために知を求めた。多くの人を救う為だったよな」

「アウダスは弱い人々を守る為だと言ったな。どうだ、その後守れたか」

「力は確かに暴力に変わりやすかった。少しでも油断すれば俺は人々を傷つける凶器になってしまう。だがそれはお前も同じだろう?」

「私は無知の闇から叡智を求めた。だが知ることによる責任は無知である以上に重かった。私は子供の頃誓った思いを忘れてはいない。知もまた凶器になる。だがその武器で私は人々を守る。これは私の戦いだ」

「誰かを傷つけてもそれは正当化されるのか!」

「大丈夫だ。誰も傷つけはしない」

その言葉に彼は耳を疑った。そしてセレーネの術が発動し、光の雨がソロンの上に降り注ぎバリアを白く浮き上がらせる。アウダスは剣を振るってそれを砕いた。そしてもう一度彼に剣を振り下ろそうとした時、彼の目と目があった。アウダスは一瞬ためらってしまった。

「攻撃を止めたな、アウダス」

ソロンが手を突き出し、そこから生まれた魔法が彼を直撃する。衝撃波が彼を襲い地面に叩きつけられた。

「力を振り下ろす時になぜ迷った。私が間違っているのならなぜ止めない」

「…できなかった。お前は俺のたった一人の家族だから、信じたかった…」

それを聞いたソロンは息を飲んで表情を変えた。今までの鉄の仮面を被ったような表情から一変し、彼に近寄ろうとした。

「アウダス、最後の最後まで本当にすまなかった。お前の疑問に私は最後まで答えることができなかった。何も本当のことは言えず、すまない…。だが答えたらお前は必ず私を止める。そして自分が代わりになろうとする。それだけは避けたかった。わがままを許してくれアウダス」

彼が手を伸ばしたその時、エリヤの矢が彼の脇腹に刺さった。

「アウダス、逃げろ!ソロン。いつだったか助けてくれた時、お前はひょっとすると良い奴かもしれないと思った。でもお前の野望は変わっていなかった。これは森の民の怒り。そしてこれから傷つけられるかもしれない多くの人々の怒りだ!」

ソロンはわき腹に刺さった矢を見つめて悲しそうに微笑んだ。

「これでいい…」

そしてセレーネをまっすぐに見つめて言った。

「アンフェルの者よ。私のあと、必ず次の答えを求めてくれ。必ずだ。真なる秘技を用いて」

そう言うと、彼は血を滴らせながら最後の力を振り絞って装置に近付いた。

「大変だ!あれを動かされたら…!」

ヘリオスが叫ぶ。

止める間もなくソロンは大きな光球の中に飛び込んだ。バチバチと激しく火花が飛び散り彼の苦しそうな声が響いた。それを見たアウダスは、駆け寄ろうとした。

「ソロン!!」

「くるなーー!」

ソロンは手をかざして魔法を発動させた。アウダスの足元からゼリー状のものが現れ、彼の足にまとわりつくとがんじがらめにして完全に足止めした。ヘリオス達は近づこうにも近づけない。

その間にもソロンを飲み込んだ光球はばちばちと電気を発生させ膨張していく。それを合図に装置は他の部分も稼働を始め、ついには大量の黒奇石を置いた増幅部分も動き始めた。そしてそれは煙突をつたって最後に拡散部分が動いた。ソロンを飲み込んだ光の球はその輝きを増していき、辺りは目を開けるのも困難なほど眩しくなった。塔の上部から光が拡散していく。

そして時を同じくして各地の魔法陣が連動して動き始めた。魔法陣は輝き、それぞれが光の柱を空に向かって照射した。塔から溢れ出た光の粒子はそれぞれの魔法陣に向けて降り注ぐ。そして空が曇り雷鳴をとどろかせはじめた。何が起こるのかと人々は固唾を飲んで天を仰ぎ見た。一瞬の閃光が空を切り裂き、人々は目を閉じた。そして恐る恐る開けた時には雪のように淡く優しい光が天から舞い降りてきていた。

術者が消えて、塔は形を維持できずに消え始めた。

「大変だ!崩れる前に出よう」

大急ぎで塔から降りる一行だったが、建物は見る間に消滅していく。そして最後までたどり着く前に塔が消えた。

「みんな、水の中に飛び込め!」

アウダスが叫び、それぞれが湖目指して落下していった。激しい水音と水柱が何本かあがった。ヘリオス達は陸に上がると、もう何もなくなってしまった塔のあたりで空を仰ぎ見た。

雪のような光が舞い散るように降り注ぐ。その一つがセレーネに触れた。まるで彼女の肌に溶け込むように光は消えた。

「あ、これは…?」

セレーネは自らの体が回復していき、いつもと違う感じになるのに驚いた。そして何かに気づいたのか「え?まさか…」と呟いた。

彼女は自分の髪の毛を一本抜くと

ヘリオス。これ、触ってみて…!」

と言った。彼は言われるがまま触ってみた。しかし今度は溶けない。彼は目を見張った。

「溶けない。どうして!」

「知の達人は…このために…今まで…!」

セレーネは全てを理解して膝をついた。

「おい、一体どういうことだ」

訳の分からないルミエールが尋ねた。

対消滅も用いず、救世主による救済もまたずに、どうやって世界の均衡を取り戻すのか、これで分かったわ。彼には第三の方法があったのよ。彼は自分を粒子化させて、対消滅やセルギオスの秘技と同じ事をやったの。彼の犠牲によって今世界のバランスが取り戻された」

ようやくソロンの真意が理解できた一同は愕然とした。

 

 彼は、崩壊しようとしている世界の構成要素を補完するために、自分を犠牲にしたのだ。それによりセレーネらアンフェルの人々は触れられても簡単には溶けないようになり、エリスに蔓延していたペトラ病も軽度の者から治り始めた。

 崩れていた世界のバランスが治ったのだ。しかし、その全てが分かった時にはソロンはいなくなっていた。アウダスは放心状態で、ソロンの姿を求めて空を見上げた。

 

 

つづく

 ただひとEP31

 

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