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小説 ただひと  EP30 レクイエム (3)

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 EP30 レクイエム (3)

 

最上階に彼はいた。装置にはエネルギーが行き渡りいつでも稼動できるようにしている。一メートルはある光の玉を中心に、黒奇石を大量に詰め込んだガラスの器が隣にあり、管を通してつながっていた。そしてそこから伸びる何本もの管は塔の上まで伸びていた。以前と形は違うが、分解、増幅、拡散の三つの装置が揃い、繋がっている。

その装置の前の段差に彼は腰掛けていた。

思いつめたようなそれでいて安らかな表情で、彼は俯いたまま独り言を言い始めた。

「ロスト…。ようやく、研究が完成する。これで、世界のほころびも修正することが出来る…。ロスト…。君は言ったね。死は、生と同じくらいに価値があると。君の命は今…多くの生命を育んでいる。君の体は、新たな命の寝床となっている。…だから…。ロスト…。私の背中を押してくれ。この世界のほころびを修正するために…」

そこにヘリオス達が駆けつけた。そして装置を見て「あれは…」と息を呑んだ。

「まさかまた人々を犠牲にするつもりじゃ…」

ヘリオスは強い疑いの目で彼を見た。

「犠牲は必要なのだ…。この歪んだ世界を変えるためには…」

ソロンは悲しそうに淡々と答えた。

「ソロン、俺はわかってる。お前、何かわけがあるんだろ?この前の変なのに脅されているとか。それで嫌々こんなことをやっているんだろ?本当はこんな事やりたくもないのに。無理やりやらされてるんだろ?そうだろ?ソロン!」

しかし彼は首をふった。

「これは、私が望んだことだ…。あの人が言うとおり、世界は犠牲を求めている。私は自らその道を選んだのだ…」

「…どうして…。お前は誰も傷つけられない。誰をも踏みつけに出来ない。そんな、心根の優しいやつだったじゃないか。子供の頃から、そうだったじゃないか!なのに、いつからそんな…冷酷な人間になってしまったんだ…!」

「アウダス…何度も言ったはずだ…。私は、心変わりなど今まで一度もしたことはないと…」

ソロンは、はじめてわかってほしいというような口ぶりで言った。

「あなたがそういう考えなら、俺達はこの装置を壊してその野望を止めるまでです!」

「そうだ!もう二度とあんな残酷な真似はさせない!」

ヘリオスは剣を構え、ルミエールもそれに続く。

 ソロンは眉をひそめて表情を一変させた。その冷たい目つきから心を閉ざしたのがわかった。

「よし、いいだろう。お前たちが私の道を阻むなら、私はお前たちを排除して目的を達成させる」

「ソロンやめろ」

「アウダス、お前の才能は堕すれば暴力。私の才能はそれれば迷妄。どちらかが過つ時はどちらかが止める。それが子供の頃からの約束だったはずだ。知か力か。私達は物心ついた時からずっと違う道を求めてきた。だから私の道を阻むというのなら、その力で止めて見せろ。だが私は負けない」

ソロンは杖を構えた。アウダスも彼の言葉で覚悟を決めたようだった。彼は鞘から剣を抜いた。

「ああ、ソロン。約束だった。俺の目にはお前は間違っているように見える。そして迷っているように見える。だったら止めてやる。そしてはっきりさせよう…!」

「ああ…、答えはその先に」

ソロンは杖を高く掲げた。彼の足元から光る人形が三体現れた。それは見る間に形を成してアウダス、ヘリオス、ルミエールにそっくりな形になった。

「君達の技、弱点は以前共に戦った時にすべて観察した。この人形達は君等自身の似姿だ。この人形達と私の技を止められるか?」

「止めてみせる!」

ヘリオスはソロンに向かって走り出した。すぐさま彼に似た人形が駆け寄ってきて剣を振るい激しく交わる。剣の構え方も同じなら、力も同じだった。

「う、これが俺?」

ヘリオスは自分の人形が振るう剣に驚いた。自分はこんなに強かったのかと知った。全てのタイミングが同じでだからこそ強敵だった。ルミエールも攻撃を防ぐので手一杯なようだった。

「くそ、ソロンに近づけない!」

アウダスは自分と全く同じ人形の攻撃に苦戦していた。力の達人とまで称せられる彼の技が細部にわたるまで忠実に再現されていた。同じ攻撃力、スピード、判断力。三体の中で一番の強敵だった。彼は自分自身の人形が隙を見せるのを待っていたが、全く隙がない。彼が攻撃すればまるで読まれていたかのように防いでくる。まるで鏡を相手に戦っているようだった。しかしこれがソロンの目的だった。決して勝てない相手を前に延々と戦わせ続ける。そして彼は違うところで別の目的を達する。彼は歯がゆかった。勝ってみせる、自分だろうが何だろうが、そしてソロンを止めてみせる。そう心の中で決意した。彼はあえて人形の攻撃を許した。剣が彼の肩から胴にかけて振り下ろされる。アウダスは激痛に歯を食いしばりながらも、その後の一瞬、剣が自分から抜けきらない隙に自らの剣を横から払うようにふるった。見事人形の腕が刀ごと地面に落ちた。人形はまだ立っていたが、

アウダスは剣を構えると飛び上がって大上段から振り下ろした。人形は彼の剣を前に倒れた。まさに肉を切らせて骨を断つ作戦だった。

「俺は、俺には負けない!」

アウダスは倒れた人形を見下ろして言った。

そしてソロンの攻撃が後方のセレーネ達を襲う。ソロンは雷の魔法を多用した。セレーネやエリヤはそれで攻撃できなくなるが、マナだけはあまり傷ついていなかった。

「アウダス、ダメだよ無理しちゃ」

マナが駆け寄りアウダスの深い傷に手を当てて治した。

「ありがとうマナ」

エリヤは弓でソロンを狙っているが通常の攻撃ではほぼバリアで弾かれてしまうらしく、セレーネの技を乗せて放とうとしていた。

「あの程度のバリア、射ぬけないの?」

エリヤはイライラしながら自分に文句を言った。

「ツキヨミの力はこんなものじゃないはず。私が、私の力が足りないから!」

「エリヤ、落ち着いて。私の術を乗せれば突き破れるかもしれないから」

セレーネになだめられてエリヤは頷いた。セレーネの技が加わればバリアに弾かれても若干のダメージを与えることができる。エリヤは弓を引いた。そこにセレーネの水の魔法が加わる。水がまるで生きているように矢の周囲で波打つ。

「行け!」

放った矢は空気中の水分を吸収してさらに大きなものとなりソロンのバリアに命中した。

「くっ!」

矢の勢いに水圧が加わりバリアが歪んでいる。水は鋼鉄のように硬くはないが柔軟で、全てを飲み込む。矢に乗った水はバリア全体を包み込み、付加された特性によりバリアを腐食するように強度を弱めていく。そこに再びセレーネの魔法が放たれようと詠唱が開始された。ソロンはそれを防ぐべく、すぐさま彼女の頭上を指差し、落雷を発生させた。詠唱が途切れて、辛くも彼女の攻撃を防いだ。ソロンは再びバリアを張り直す。

 

 

つづく

ただひとEP30(4)

 

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