小説イラストレーター蒼生のなんでもやってみるブログ

小説家兼イラストレーターの蒼生が気ままに書いているブログ。Twitter https://twitter.com/sousei0303 mail: sousei_novel@yahoo.co.jp

小説 ただひと  EP30 レクイエム (2)

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 EP30 レクイエム (2)

 

3日ほど経って、イーサンがヘリオス達を呼んだ。

「ソロンさんに関係あるか分からないんだけど」

そう前置きをしてイーサンは始めた。

「死の湖の中に突然大きな塔が建てられたんだ。前はそんなものなかったから、数日の間かな。その塔がなんだか妙に輝いているらしいんだけど、これって何かの役に立つ?」

イーサンの言葉でセレーネは頷いた。

「それはきっとあの研究施設と同じ素材よ。行ってみましょう」

 

 

 

 死の湖までたどり着いた一行は、そこに緑が息吹き始めていることに驚いた。あの立ち込めていた異臭もなく、水は灰色ではなく透き通っている。辺り一面一切の緑がなかったのに、若い新芽が土の中からぽつぽつと現れていた。

「どういうこと?この前まで死の土地だったのに…」

「すごい!きれいになったみたいだね」

マナが小さな芽を見て喜んだ。

「ああよかった。これでこのあたり一帯の水不足も解消されそうね」

エリヤも安堵したように言った。

 湖の中に以前はなかった小島ができている。その中央にあの研究施設と同じ透き通った素材の塔ができている。それは光を浴びてきらきらと輝いていた。

「あの中に、黒いもやか、ソロンが居るかもしれないのか」

アウダスの言葉にセレーネも頷く。

「どうやってあそこまで行く?」

「船でもないかしら」

「いくら綺麗になったからって死の湖だよ。落ちたら死んでしまう!」

エリヤはセレーネを止めた。しかし水はきれいで透き通っていた。小さな昆虫たちがその上を漂い、鳥たちが湖の上で羽を休めたりしている。

「もしかしたら完全に綺麗になったのかも」

ヘリオス達は近くの古木をつなぎ合わせて筏をつくり、湖に浮かべてみた。以前ならたちまち蒸気を発して溶けてしまうのに、何事もなく浮いていた。

ヘリオス達は恐る恐るそれに乗ると小島まで行った。

筏から見た水は本当に澄んでいた。マナが面白がって手を突っ込んだが、何事もなく普通の水になっていることがわかり、他の者たちも次々に試した。

「なんであんなに汚染されていた水が一変に綺麗になってしまうんだ?」

「奇跡だわ」

ルミエールは濡れた手を見ていった。エリヤも驚いていた。

 小島にたどり着くと、そこは岸よりも緑が早く成長していた。マナは陸に上がると大地を抱きしめるように手で触れた。

「ここの土は元気だよ。他の命を育むだけのエネルギーがある。僕ここに居るとすごく落ち着くな」

マナはずっとそうしていたいというように動かなかった。

「さあマナ。行きましょう。塔は目の前だから」

「うん」

マナは名残惜しそうに手を離した。

 塔の中はあの時の研究施設と同じようにセキュリティーロボットが居て中を守っていた。ヘリオス達はそれを退けながら上を目指した。そこにあのもやかソロンか、その両方が居るはずだったからだ。

建物は以前ソロンがいっていた通り、エーテルと生命の土が主原料になっているようで、ヘリオス達にとってはただのすきとおった壁だったが、セレーネが何かの呪文を唱えるとそこからわずかにエネルギーを取り出すことができた。でもマナにはエネルギーを取り出すことができないらしくやはりただの壁だった。

「アンフェルの建物はみんなこんな感じなのか?」

ヘリオスがセレーネに尋ねた。

「割合にもよるかしら。エーテルの比率が高ければ高いほど、透明度が高くなるけど、強度は弱くなるわ。この建物は生命の土の割合が高いようだけど…」

「でもエーテルも生命の土も、エリスでは希少なんだろ?どうやって作ったんだろう」

ヘリオスは首を傾げ、セレーネも不思議そうに頷いた。

「分からないわ。ソロンさんは大気中のエーテルを集める方法を知っているのかもしれないわ。生命の土は、以前研究していたとも言っていたからそれかしら。どちらにしても、物質には恵まれているエリスでこの技を使うのは珍しいわね。アンフェルでは物質よりもエネルギーの方が多いからそれを形にしていくの。魔法もその一つね」

「ねえ、セレーネ。私のツキヨミもアンフェルの物よね。どうしてわかったの?」

エリヤが尋ねた。エリヤの持つ神弓ツキヨミは透明というよりは大理石のように白い。

「それは見ればわかるのよ。私が魔法を使うからそうなのかもしれないけど、エネルギーを凝固させた物は強く振動しているの。だからそれ自体が多かれ少なかれ輝いているの。そのツキヨミは、もしかしたら遥か昔に造られたものだからかもしれないけれど、少し輝きが減っているようね」

「そうなんだ…」

エリヤは残念そうにツキヨミを見た。

「大丈夫よエリヤ。エネルギーで造られた物はエネルギーを与えれば活性化するの。だからあなたのエネルギーが、ツキヨミに分け与えられるくらい純度の高いものになればきっと以前の輝きを取り戻すはずよ」

エリヤは彼女の言葉に何度も頷いて「私頑張る!」と言った。

一行は塔の中を上へ上へと進んで行く。

アウダスはずっと歯を食いしばっている。ソロンを信じたい気持ちと、一方で彼が引き起こした様々な事件により人々の生活が混乱した事実があり、彼の心はずっと揺れ動いていた。また彼を止めなければ大惨事が引き起こされかねないという懸念もあった。軍人アウダスとしては、考慮するまでもなくソロンを断罪していた。しかし人間アウダスとしては、つまりソロンの兄弟としては、理屈ではなかった。彼を救いたい気持ちもあり、倒さなければならない敵として認められずにいた。彼の心の中は千々に乱れ、その葛藤は極限にまで沸騰していた。

 

つづく

 ただひとEP30(3)

 

YOUTUBE朗読版 

www.youtube.com


ツイッター  

twitter.com