小説イラストレーター蒼生のなんでもやってみるブログ

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小説 ただひと EP29 ロスト

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 

EP29 ロスト

 

ソロンはロストと共に次元の扉からでてきた。あたり一面が砂漠で、ときおり強い風が土を巻き上げた。しばらく歩くと砂の中に埋もれた遺跡の残骸のようなものが飛び出ている場所が遠くに見えた。だがその前では鱗をギラギラと光らせた巨大なドラゴンが睨みをきかせてソロン達を待ちかまえていた。

「もう始まったのか…あの人の復讐が」

「しかたなかろう…。あの小童はそういう奴じゃ」

「ロスト、疲れている所すまないが」

「気にするな」

ドラゴンはソロン達に気付くと舞い上がって彼らめがけて青い炎を吐きつつ攻撃してきた。

「ソロン!」

ロストはソロンの盾になり、火が彼を傷つけないように守った。そして炎が止まったのを見計らって今度は巨体を揺らしながらドラゴンめがけて走っていった。ロストはドラゴンの足をつかむと大きな腕で空から引きずり降ろし羽交い締めにして動きを封じた。その間にもドラゴンは再び炎を吐き出そうと胸を膨らませている。ソロンは詠唱を終えると魔法陣を発生させた。

「ロスト、離れるんだ!」

ロストはその声で素早く腕をほどいてドラゴンから離れた。魔法陣がドラゴンに真っ青な光を浴びせ、端から凍らせていく。そして最後には氷の彫刻のようになってしまった。

「とんでもないお出迎えだったわい」

ロストは疲れたというようにゆっくりと立ち上がった。

砂漠の中から突き出た石柱の間に小さな入り口があった。その奥には地下へとつながる階段があり、ソロンはその前で再び次元の扉を開いた。

「ロスト、家に帰ろう」

「ああ」

ロストはその入り口からは中に入れないので一旦次元の扉の中に入った。

一人がようやく歩けるような狭い階段だった。その中を地下へどんどん降りていくと、広い空間が現れた。かなり古いものだが真四角の石を隙間なく並べた床の上に彫刻の施された石柱が何本も立っている。壁や天井には光る石が埋め込まれ、それがランプのように辺りを照らしていた。大昔の神殿か何かのようだったが、その中をソロンは進んでいった。大広間の奥に通路が伸びていて、その奥に彫刻の施された古めかしい大扉があった。ソロンはそれを開けて中に入った。真っ先に目に入ったのは粗末な机の上に山と積まれた紙束だった。ここで彼は研究をしているようだった。その側の壁一面の本棚にも沢山の書類や標本、何かの鉱石が並べられている。天井は高くロストが立っても大丈夫な高さがあった。そしてさっきの場所よりもさらに広く、立派な壁や柱があり、厳かな雰囲気が漂っている。部屋の奥には何かを祀るための祭壇があった。

ソロンは杖を出すと次元の扉を開いた。空間が開いて中からロストが出てくる。だがロストはよたよたと這い出ると、いきなりうめき声をあげて膝をついた。手や足の関節からどんどんと砂のようなものがこぼれ落ちている。ロストの寿命はつきつつあった。粒子を結びつける力が弱まり最期には崩れて土にかえる。ソロンはそれを見て慌てて駆け寄った。

「ロスト!…すまない。無理をさせてしまって。すぐに回復を…」

彼は杖をかかげて魔法を使おうとしたが、ロストはそれを制止した。

「もういい…」

「え?」

「全ての命には終わりがある。それを避けることは誰にもできぬ…」

ロストは低い声で悟ったように言った。ソロンはその言葉の重みに瞳を揺らす。

「ソロン、わしは長い間生きさせてもらった。ずっと昔、小童が生まれる前から、わしはこの世界に生を受けた。沢山の命に出会った。沢山の別れがあった。多くの命に世話になって、わしはここまで生きてこられた…。わしらの種族は生きている間、他の生物に厄介をかける。だが、わしらの体が朽ちる時、そこには豊かな大地が遺る。そして、多くの命がそこで新たに生まれ、栄える。だからソロン、わしらにとって死ぬときは、世界に恩返しが出来るときなのだ…」

ソロンは彼の言葉を頭では理解していたが、受け入れられず、たまらず首を振った。ロストは彼の愛情に応えるように続ける。

「ソロン、わしはお前と出会い、そばで見て、その苦悩を知った…。世界のために心を、魂を砕き、無心にそれを実現しようとするお前の戦いを知った…。わしは、生涯の一番最期に、お前と出会えて良かった。本当に…よかった…」

ロストはまた苦しそうに声をあげてうずくまった。砂がさらにこぼれ落ちる。ソロンは流れ落ちる砂を止めようととっさに関節に手を当てる。

「ソロン…頼みがある。…わしの死に場所を探してくれないか…。お前の理想のために、この体を使ってくれないか。すべての生命のために、最善の方法で…!」

「…わかった」

ソロンは静かに頷くと、杖を使いロストと自分の足元に巨大に魔法陣を発生させた。強い光が二人を包みこみ、ぱっと消え失せた。

次に魔法陣が現れたのは死の湖の前だった。雨は降っていないが、異臭が立ち込め灰色の水が砂浜に打ち寄せる音が絶え間なく聞こえわびしかった。

「ここか…」

ロストの言葉にソロンは頷いた。

「この湖は完全に汚染されている。この場所を浄化してほしい」

「ああ、ありがとう…!」

ロストは感動したように声を震わせた。

「これでようやく、土に還る」

ロストはそばにいる小さなソロンのために膝をかがめて彼の顔をよく見ようとした。

「ソロン、今までありがとう。本当に会えて良かった。これで、最期になるな…。お前の理想を、果たしてくれ」

ロストは別れの言葉を告げるとゆっくりと湖に向って歩き始めた。ソロンはその後ろ姿を見て逡巡していたが「待ってくれ!」と言って、後を追いロストのそばまで行った。

「最期まで、一緒だ」

「ああ…ありがとうよ。本当に、お前に出会えて良かった…」

ソロンは彼の肩に乗せてもらい、二人で死の湖の中を歩いていった。ロストの足が浸かり腰が浸かり、胸が浸かり、そして最期まで、彼と共にいた。

 

 

つづく

ただひとEP30

 

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