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小説 ただひと EP27 旅の理由

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 

EP27 旅の理由

 

アイオーンは学都へと戻ってきた。タラップから降りてきた者で明るい顔をしている者はいなかった。

天空要塞は海の藻屑となって消えた。ディオンも崩れゆく要塞の破片と共に海の飛沫となって消えた。ヘリオスは魂が抜けたようだった。彼は俯いてふらふらとその場を去っていった。

「あいつ、大丈夫かな」

ルミエールは心配そうにその後ろ姿を見ていた。

「今は精神的なショックが大きいのだろう。しばらくはそっとしておくしかない」

アウダスもディオンの件でヘリオスの受けた心の傷を心配していた。

「体の傷だったら僕が治してあげられるのに」

マナは自分の両手に視線を落として呟いた。イーサンも黒奇石を手にアイオーンから降りてきた。

「心って難しいよね。外からは見えないし、もしかすると自分自身でも見えない。ヘリオスは友人を助けたかったのかもしれないけど、でも友達だって心の問題は救えない。ディオンは自分の問題をなんとかしようとしていたのかもしれないけど、うまくできなかった。そしてヘリオスも助けられなかったんだと思う」

皆が黙った。そして一人アウダスだけが顔を上げて言った。

「しばらくはここに居よう。ヘリオスのこともあるし、ソロンのことも調べないといけない。それにみんな戦いにも疲れただろう。今はしっかり休んで次に備えよう」

アウダスはそう言うとマントを翻して出ていった。

「アウダスももしかしたら、ヘリオスみたいにつらい戦いをする事になるのかな」

エリヤは心配した。

「あいつも今きっと揺れ動いているはずだ。ヘリオスの姿を見て自分を重ねなかったはずがない。今はそう、覚悟を決めようとしているのかもしれない」

ルミエールも彼女と同じ心配をしていた。

 セレーネはどうすればいいのかわからず黙っていた。

 

ヘリオスは中庭にいた。扉が開閉する音がしてセレーネが入ってきた。彼女は隣に座ると彼を見た。

ヘリオス?」

ヘリオスは黙ったままだったが、チラと彼女を見た。絶望に打ちひしがれた目だった。

「俺はもう何もかもが嫌になってしまった。徴兵で村を出たあの時から、何かが失われて、もう戻らないような気がしてたんだ。あの時は家には母さんがいて、ディオンはいつも猟銃を肩から下げて、獲物がとれすぎると家に持ってきてくれた。俺も野菜を分けたり、家で一緒に食事をしたりして、いっつも一緒にいて、喧嘩して笑って、助け合ってきた。小さな村で、大きな事は何も出来なかったかもしれないけど、でもあの時の幸せで十分だった。俺は出来る事ならあの頃に戻りたい」

セレーネは彼の悔しさと悲しさが痛いほど分かり静かに頷いた。

「分かるわ。私ももし、世界がこんな事になっていなければずっと友人達や家族と故郷で暮らして居たかった」

「え?」

ヘリオスは意外そうにセレーネを見た。

「あなたの気持ち、私分かるわ」

「セレーネはもっと強い人だと思ってたよ。だって、世界の為にアンフェルからこんな所に来て、ずっと戦い続けてるんだから。俺なんかとは比べものにならない」

「私はそんなに強いわけではないわ。ただ、守らないといけないものがあるから、そういう風に見えるのかもしれない。私は前を向くしかないのよ。私の故郷アンフェルでは、バランスが崩れて世界が端からどんどん溶けるように消えて行ってるの。数年前にはあった山や家が無くなっていく。辛いけれど一度失われた物を取り戻すことはできないわ。だからこれ以上失わないように生きなければいけないの。過去はいつも優しくて美しくて魅力的だわ。でも過去を見ていたら今あるものすら守れない。だから私は自分の力を信じて出来ることをやるしかないの。自分が迷ったり躓いたりしたら、守れるものも守れなくなる。それって悔しいから。守ってあげたいから。だからよ」

ヘリオスは黙って聞いていた。

「セレーネ、君はやっぱり強いよ。俺はまだディオンの事が忘れられないし、立ち直れない」

「あなたの喪失は大きなものよ。だからすぐに立ち上がるなんてそんな無理はしなくても良いわ。でもあなたにはまだ守りたいものがあるはず。その人達を守る為に、もしまだあなたの中にその気持ちがあるのなら、一緒に旅をして欲しい。これは私のわがままかもしれないけれど、あなたとこれからも旅をしたい」

「俺で良いのか?」

「ええ。いつだったかしら。最初出会った時あなたは私に手を差し伸べてくれた。私はそれを握り返すこともできなかったけれど初めて出会ったエリスの人があなたで本当に良かった。嬉しかったわ。そして私の使命を聞いた時、あなたは真っ先に私の重荷を背負うと言ってくれた。私はあなたの優しさに何度も救われてきたわ。このエリスで、私は孤独だった。だからあなたが居てくれて本当に良かったと思うの」

ヘリオスは彼女の口から聞いた意外な言葉に驚いていた。

ヘリオス、急ぐ必要はないわ。今は自分と向き合って」

そういうとセレーネは去っていった。

 

 ヘリオスは中庭を出てとぼとぼと歩いていた。廊下でルミエールと会った。

「よ、どうだ調子は?」

「ああ、まあまあだ」

「そうか。旅、やめてもいいんだぜ」

「え?」

「そんな顔してる」

「そうか」

「仲間が居なくなって辛くないわけがない。でもお前の人生をどうするかはそれとは別だ。良く考えて決めろ。旅をやめてもいい。続けてもいい。どう生きたいか、それ次第だ。よく考えろ」

「ああ」

ルミエールは励ますように彼の肩を叩くと立ち去っていった。

 

ヘリオスは研究所の中を歩き回っていた。広い施設の中、真新しい目を引くものが溢れている。それを眺めているとその時だけは気が紛れた。彼はぶらぶらと歩いていたが、マナの声が聞こえ立ち止まった。部屋の扉が開いていて、奥にマナがいた。マナはその特殊さから色々な科学者の注意を引いていてよく研究の協力をしていた。マナはヘリオスを見ると駆け寄ってきた。

ヘリオス大丈夫?」

「ああ心配かけてごめん。大丈夫だ」

「僕ね、こういう時なんて言ったらいいかわからないんだ。でも僕もヘリオスと一緒でとても悲しい。僕がその悲しい気持ちも治せたらいいのにね」

「マナは、ワイズさんの所へ戻りたいとか思わないのか?」

「思うよ。でも僕旅をしてて少しずつ僕にしかできないことがあるって思うようになったんだ。それでセレーネやヘリオスやみんなの事助けられるんだって。だから僕はワイズの所に帰りたい気持ちもあるけど、でもできることがある限りみんなの力になりたいんだ」

「そうか…」

ヘリオスはマナが想像以上に大人びた返答をしたので戸惑ってしまった。まるで自分が視野の狭い子供のように感じられたからだ。

ヘリオスもお母さんいるんだよね。僕と似てるね」

「ああ。そうだな」

奥で科学者がマナを呼ぶ声がした。

「あ、ごめんヘリオス。僕行かないと。またね」

「ああ、じゃあな」

 

外に出るとエリヤが的に向かって矢を放っていた。百発百中で一点に向かって何本もの矢が刺さっている。エリヤはすぐにヘリオスに気付いて矢を放つのをやめた。

ヘリオス

彼女も彼の事を心配しているようだった。

「エリヤ。稽古の邪魔をして悪かった」

「いや、いいよ」

二人は何を言えばいいかわからず下を向いた。沈黙を破ったのはヘリオスだった。

「エリヤ。相手になるよ」

「本当?ありがとう!」

エリヤは途端にいつもの表情に戻った。ヘリオスは剣を抜いてエリヤの攻撃を防ぐ。エリヤは矢継ぎ早に放つので、ヘリオスも最後には音をあげた。

「エリヤ。強すぎるよ」

「そんなことないわ。まだまだ私は未熟よ。神弓ツキヨミは本当はこんなものじゃないわ」

エリヤは弓を大切そうに握りしめていた。彼女は何かを言おうと何度も口を開きかけ躊躇っていたが、それがようやく言葉になった。

ヘリオス、負けないで」

「え?」

「自分に負けないで」

エリヤは少ない言葉の中に沢山の思いを込めているようだった。

「エリヤ。負けないよ」

「うん」

エリヤはヘリオスに礼をした。そして壁に刺さっている矢を一本一本抜いていった。

「ディオンの事は私はまだ許せない。でも一つだけ彼は私に教えてくれたわ。私は弱いって。だから強くならないといけないの。森の民の聖域を守る巫女として、そしてセレーネを守るために。それに自分自身に負けないためにも。私は弱いって、誰かに言ってもらわないといけなかったと思うの。私はたくさん守りたいから。ヘリオス。またいつか相手になってね」

ヘリオスは彼女の真剣な言葉を聞いて声が出なかった。そして頷いた。

 

彼は気がつくと、アウダスの部屋の前に居た。ヘリオスにとってアウダスは兄のような存在だった。困った事があればいつでもアウダスを頼っていた。だから無意識のうちに彼のもとへ足が向いたのかもしれない。

部屋を訪ねるとアウダスはヘリオスを見て穏やかに笑った。

ヘリオス、良い顔になったな」

予想外の言葉にヘリオスは驚いた。

「最初会った時、まだ子供っぽさの抜けない顔をしていた。兵士にするには気の優しそうな純朴そうな顔だった。でも今は自分の意志を持った一人前の男の顔になっている」

「え?」

ヘリオスは毎日見ている自分の顔がそんなに変わっているなんて想像もしていなかった。

「成長した証だ」

「隊長」

アウダスはそれを聞いてすぐには答えなかった。

「もういい、アウダスで。そんな生真面目な呼び方をしているのはお前くらいだぞ」

「ですが」

「アウダスでいい。ヘリオス

ヘリオスは戸惑いがちに言われたとおりに言い直した。

「アウダス…。俺は旅を…続けます」

「そうか。よく乗り越えたな」

「ディオンを俺はちゃんと理解してやれなかった。それは今でもとても悔しい。でも俺の仲間はディオンだけじゃない。マナも、ルミエールも、エリヤもアウダスもイーサンも、そしてセレーネも。みんな俺の大切な仲間だ。俺は自分のできることをして皆の役に立ちたい」

ヘリオス。よく言った!」

アウダスはヘリオスの顔をまっすぐに見た。

「これからもよろしく頼むぞ」

「はい」

ヘリオスはアウダスの強い瞳をまっすぐに見つめ返すことができた。

アウダスの部屋を出るとセレーネがいた。

「セレーネ、決めたよ。俺はこれからも旅を続ける。そしてもっと強くなって君を守れるようになりたい」

「え?私を?」

「ああ、必要ないって言われるかもしれないけど、セレーネが一人で頑張らなくてもいいように、君の重荷をちゃんと半分背負えるような自分になりたい」

「うん…ありがとう」

セレーネは嬉しそうにうなずいた。

 

 

つづく

ただひとEP28

 

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