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小説 ただひと  EP26 天空要塞(4)

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

  

 

 EP26 天空要塞(4)


最上階にある操縦席と思われる部屋の前で門番のような魔物を倒し、堅牢な扉を開けると広間の奥にディオンがいた。まるで玉座のような黒い椅子に座っている。だがそれはこの要塞同様無骨で冷たい感じがした。彼は足を組んで座っていたが、ヘリオス達をみると顔をしかめた。

「お前らしつこいな」

「ソロンはいないのか?」

アウダスが尋ねた。

「生憎、あの人はここにはいないよ。ここは俺に任されている。ここは俺の城だ」

ディオンは自信満々に薄ら笑いを浮かべた。

「ソロンさんは、世界の崩壊を防ぐためにこんな事をやっているの?」

「そうみたいだね」

「そうみたいって?」

「俺はよくしらない。でも大きなものを救うためには犠牲が必要だっていつも言っている」

「それはどういう…」

「つまりお前らみたいな邪魔者は排除しなくちゃなってことだよ」

ディオンは立ち上がると、指笛を吹いた。すぐに魔物達がかけつけてヘリオス達を取り囲む。

「お前らと戦うのも飽きてしまってね。俺はここで高みの見物でもさせてもらうよ」

そう言うとディオンはニタニタ笑いながらヘリオス達が魔物と戦っているのを見物し始めた。

アウダスは一人で三体から五体の魔物を相手にしている。ヘリオスも応戦していたが、詠唱中のセレーネが魔物に襲われそうになっているのを見て彼女の前に進み出て攻撃を防いだ。

「セレーネ、魔物の攻撃は俺が防ぐ。早く魔法を」

「ありがとうヘリオス

セレーネはヘリオスが戦っている間にも詠唱を続けた。杖の先にチリチリと火花が発生し、それがどんどん大きくなっていく。そしていくつもの炎が杖の先に生まれ始め、ついに詠唱が終わり魔法を発動させた。いくつもの炎の球が、辺りにいる魔物めがけて飛んでいく。魔法は魔物を烈火で包み次々に断末魔と共に消し去っていった。そして、残った敵をヘリオスとアウダスが一体ずつ切り伏せていき、彼らを取り囲んでいた魔物の壁は消え去った。

 最後の一体が倒れると、ようやくディオンも立ち上がり乾いた拍手を贈った。

「さすがだよ。で、どうしたいんだ?」

アウダスは剣を握りしめその愚弄するような仕草を睨みつけた。

「ソロンのいるところを教えろ」

「それは無理だね」

「じゃあなんのために魔法陣に光を照射しているの?」

「それも答えられない。あの人のことは俺は何も知らない。いい加減他の質問はないのか?」

「ディオン、どうして俺達の敵になってしまったんだ。今からでもいい。もう一度」

「それも無理だ。ヘリオス。お前はいつも良いやつだった。お前には屈折したところが微塵もない。でもだから俺の感じる惨めさをお前は理解できない。はっきり言おう。昔の俺は弱かった。でもお前は違った。俺はそれをそばで見ているだけだった。自分では克服できなかった。けれどあの人はそんな俺に力を与えてくれた。おかげで無力だった俺は、今では引き金を引くだけで敵を倒すことができる。俺はもう何もかもが以前とは違うんだ。もう戻れない。そういうわけだヘリオス、俺は二度と昔のような姿ではお前とは向き合えない。だからこうやって戦う以外に道はない」

ディオンは魔銃を出した。そして魔弾を装填してヘリオスに向けた。

「伏せろヘリオス!」

アウダスが覆いかぶさるように彼を魔弾の攻撃から守った。ヘリオスのいた辺りを風の魔弾が通り過ぎていった。

「お前は俺を今でも友達だと思っているのかもしれない。だが、人間は変わるんだ。いつまでも子供の頃の思い出に浸っているわけにはいかない。過去はもう過ぎ去ってしまった」

「ディオン…」

ヘリオスは信じられないというように彼の冷たい瞳を見つめ返した。

「さあ、剣を取れヘリオス!俺の魔弾がお前を仕留めるか、それともお前の剣が俺を仕留めるか。勝負だ」

ヘリオスは立ち上がると剣を抜いた。

「ディオン、俺はいつまでもお前の友達だ。でも、今のお前とは激しく喧嘩しないといけないみたいだ」

それを見たディオンは満足そうに、だがわずかに悲しそうな笑みを漏らした。

「そうだヘリオス。手加減はなしだ」

そう言うと彼は魔弾を装填した。例の三発連続で発射するものだった。彼は頭上に向かって一発発射したが何も起こらなかった。そして二発目はヘリオスに向けられた。

「させるか!」

アウダスが走り寄り、剣を振り下ろそうとした。だが、ディオンの一メートル前で見えない壁に阻まれ剣を振り下ろすことができない。ソロンの時と同じだった。

「あんたの攻撃は効かないよ。この魔法が効いている限りはね」

ディオンはヘリオスに向けていた銃口を今度はアウダスに向けた。引き金を引いた途端、一閃の稲光が走り、雷撃が彼を襲った。彼はよろけたが、まだ踏みとどまって剣を構え直した。

「あんた、本当にしぶといよね。さてもう一発だ」

宣言通り、ディオンは引き金を引いた。炎の渦がアウダスを包み、彼は膝をついた。

「ふん。いつだったか、あんたは俺が膝をついた時、無価値な雑兵を見放すように去っていったよな。あの時の靴音、今でも覚えているよ。あんた知らないだろうから教えてやるよ。弱いって言うのはな、こういう屈辱を味わうってことなんだよ」

彼は弱り切ったアウダスを足蹴にした。なんとか剣で支えていたアウダスの体がくずおれる様に倒れた。

「ディオン、お前は間違ってる」

ヘリオスはアウダスをかばい後ろにさがった。ディオンは眉を動かした。

「へえ、何が違うって言うんだ?教えてくれよ」

「力はこういう風に使うものじゃない。誰かを守るために使うべきだ」

ディオンは顔を覆い、笑いを堪えるように体をよじった。

「お前のさ、そういう綺麗事聞くと、冗談にしか聞こえないんだよな。なんでだろうな。俺はきっとお前のように素直じゃないからかもな。いや、違う。…俺はお前よりも現実の辛さを知っているからだ」

ディオンは吐き捨てるように言うと、再び銃口を向けて放った。しかしヘリオスはそれをただちに伏せてかわした。

「お前は昔からイライラし始めると撃ち方が雑になる。力があってもそういう所は変わらないな」

それを聞いたディオンはかっと頭に血が上ったのか、血相を変えて魔弾を乱射した。だがヘリオスはその全てをかわした。ディオンは狙っているようで全く狙えていない。

「くそ、照準は合わせているはずなのに!」

「ディオン、俺はお前に言いたいことがある。いっつも自分だけカッコつけて、自分だけ辛そうな顔して、俺のことなんて忘れて!一人で何でもかんでもやろうとしてカッコつけるな!言っとくけど、お前はそんなにカッコ良くないからな」

「なんだと」

「いつも周りの目を気にして、自分勝手で、でも結局自分がない。いつも何かになろうとしてもがいてるけど、そんな悪あがきやめてしまえよ!俺の知ってる、カッコ悪くって情けなくて自分勝手なそんなディオンで良いじゃないか!」

ヘリオスはディオンが魔弾を装填している間に周りに張られた見えない壁を砕こうと剣を振り上げた。激しい音が鳴る。だが砕ききれず、剣がバリアに食い込んで離れない。ディオンは直ちに魔弾をこめて銃口ヘリオスに向けた。

「うるせえよ、のろま!お前なんかに説教される筋合いはない!」

水の魔弾が彼を直撃し、後方へ飛ばされる。ヘリオスは水が喉に入ったのか激しくむせて水を吐き出している。

「結局偉そうに言ったところで力の差が全てだ。ヘリオス、これで俺の勝ちだ」

彼は容赦のない冷酷な目で彼を見下し、再び銃口を向けた。

その時、ようやくセレーネが魔法の詠唱を終え、ディオンの上空に魔法陣を発生させた。光る雨が降りそそぎ、彼の周りに張られていた見えない壁が白く浮き上がりはじめる。

「なんだこれは?」

ディオンが困惑気味にその変化を目で追っているすきに、ヘリオスは再び剣を取り、見えない壁めがけて振り下ろした。今度はまるで脆い土壁に剣が食い込むような手応えがあり、眼前の壁は見る間に亀裂が入り砕けた。そしてヘリオスの剣は壁を砕いたその勢いのままにディオンへと袈裟斬りに振り下ろされた。ヘリオスの攻撃でディオンはよろめき、膝をついた。顔を上げた彼は悔しそうに微笑んでいた。

「なんでだよ…」

そう言い残すと彼は前のめりに倒れた。

「ディオン…」

ヘリオスは忸怩たる思いを抱えていた。ディオンの事は子供の頃から全部知っていると思っていたのに、彼の気持ちまでは何も知らなかった。いつからこんなに心が離れてしまったのだろう、ヘリオスは倒れている友人の中に無力な自分をも見つめていた。セレーネは倒れたアウダスを回復させている。ヘリオスはそれを見てディオンも治してもらおうと思った。彼の傷はまだ浅い。だから早く治して貰おう、そう考えていた時、突然要塞が軋みをあげて傾き始めた。エリヤ達が黒奇石を動力部から奪還した合図だった。

「大変だ!逃げるぞ」

アウダスは全快していない体のまま立ち上がり、急いで逃げ道を確保しようとする。

ヘリオスはディオンの方へ駆け寄り、彼を背負った。

「何をやっている!そんな裏切り者」

「友達なんだ!どんな風になっても見捨てられない!」

「っ、勝手にしろ!」

ヘリオスはディオンを背負って崩れる要塞の中を逃げる。アウダスは率先して魔物の攻撃を防ぎ応戦している。ヘリオスが戦えないためだ。

ディオンはヘリオスの背中でゆられながら意識を取り戻した。彼は衝動的に倒さなければと思い、彼の腰に刺さっている剣の柄に手を伸ばした。しかし自分を背負って傾く要塞の中を息を弾ませながらも走り続ける彼を見て、ぐっと拳を握りしめてやめた。

要塞の出口では飛空艇が待っていた。崩れていく要塞に巻き込まれないようにしながらも、アイオーンはできるだけ近くまで寄せている。甲板でマナやルミエール、エリヤが叫んでいた。

「セレーネ、先に飛べ」

アウダスは手で踏み台を作り、彼女がそれに足をかけた瞬間に腕を振り上げ無事甲板まで届けた。ドサリとセレーネが着地する。それを見届けたアウダスは、後ろに下がり、助走をつけると、ヘリオスを掴んで飛び上がろうとした。

けれど、要塞の崩れていくスピードが早く、どんどんと距離が離れていく。

「もっと寄せて!」

エリヤが甲板のマイク越しにイーサンに怒鳴る。

『無理だ!これ以上は巻き込まれる』

「はやくー!」

マナが大きな体で必死に二人に手を振っている。

ヘリオスとアウダスはどんどん離れていく飛空艇に飛び乗ろうと空でもがいた。しかしどうしても無理な距離。このまま要塞の落下に巻き込まれてしまうと思われたその時、ディオンがヘリオスの肩から手を離し彼の背中を思いっきり蹴った。背中の痛みに顔をしかめつつも何がなんだか分からないヘリオス。見ると下方に落ちていく友がいた。

「生きろよ。ドアホウ。…じゃあな」

ディオンは風の魔弾を撃った。すると、二人は強風に煽られて飛空艇に無事乗ることが出来た。

ヘリオスは、落ちていくディオンを捕まえようとせっかく乗った飛空艇から身を乗り出した。そして皆に制止されながらももがいて、狂ったようにずっと彼の名前をよんだ。

 

 

 

つづく

ただひとEP27

 

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