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小説 ただひと EP25-4 動揺そして救世主の使命

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 

EP25-4 動揺そして救世主の使命

 

ソロンが何か大きな目的のために様々な事をやっているのは分かったが、しかしそれが何かまでは分からなかった。一番動揺したのはアウダスだった。兄弟が悪事を働いていると思っていたのに、そうとも言い切れないようで、彼は混乱した。何が正しいのか分からない。しかし彼を止めなければならないという矛盾した使命の中に彼はいた。

「ソロンは一体…」

アウダスは混乱したままの頭でそう呟いていた。

ヘリオスはさっき彼女が口走っていた事を手掛かりに尋ねた。

「セレーネ、さっき言っていたことってどういう意味か教えてくれないか?セレーネはソロンさんの目的に心当たりでもあるのか?」

セレーネは彼の質問にすぐには答えないようだった。まるで答える事をためらっているかのように目を伏せ、深く思慮を巡らすように黙っていたが、しばらくしてようやく首を縦に振って口を開いた。

「確かではないけれど、ソロンさんも私と同じようにエリスとアンフェルの危機に気づいている可能性があるの」

その言葉で一同はざわついた。

「その危機ってなんなんだ?」

ルミエールが尋ねた。

「この世界エリスと双子の世界アンフェルは二層の膜のように向かい合い重なっているの。そして今、アンフェルのバランスが崩れ、世界は端から侵食されるように失われ始めてるわ。アンフェルの人々は体を構成する分子の強度が弱まって、こうやってエリスの人が触れれば簡単に溶けてしまうようになっている。アンフェルがバランスを崩せば、エリスにも影響が出るわ。エリスのエネルギーはアンフェルに到達し、アンフェルのエネルギーで補完されてまたエリスに戻るようになっているから。だからもしアンフェルがエリスからのエネルギーを十分に補完できなければ、使い古されて空疎なエネルギーがまたエリスに循環することになる。エリスには物質と物質の間を流れたり結びつけたりする魔法の元である媒質エーテルが無いわ。エリスはむき出しの物質とエネルギーしか生成しないから。潤滑油であるエーテルが無いの。ペトラ病はそれが原因で、分子同士が固まっておこっ

てしまうの。だから、アンフェルが媒質であるエーテルを十分に供給できなくなった時、エリスは魔法を使えなくなるだけではなくて、エーテルが枯渇した事による大規模な飢饉や異常気象、そしてペトラ病のような疫病がはやる可能性があるの」

それを聞いて全員が絶句した。

「なんでそんな事黙ってたんだ」

ルミエールは彼女に訴えた。

「だって誰も信じてくれないと思って」

「信じるも何も、一言もそんなこと言わなかったじゃないか」

ルミエールはつい責めるように語気を強めて言った。セレーネは黙ってしまった。

ヘリオスは彼女を労わるように傍に行って肩に手をかけようとした。が、それはできずすぐに止めた。

「セレーネ、今まで君がどんな辛い気持ちでいたか、全然気付かなかった。本当にごめん。ずっとそばに居たのに。でもこれからは、できれば君の問題をみんなで解決したい。教えてくれないか。君はどうやってこの問題を解決しようとしていたのか。僕らにも君の使命を手伝わせてくれ」

セレーネはヘリオスの方をはっと見た。彼の優しい目が彼女を捉えた。セレーネの中にこれまで占めていた孤独感が彼のその一瞬の眼差しで氷が溶けるように小さくなっていった。セレーネはこみ上げる思いを噛みしめるように唇を噛むとゆっくりと頷いた。

「この問題は今に始まった事ではないの。記録によると千年前から何度も繰り返されてきて、その度に聖者達が世界の秩序を取り戻し、安らぎを創り出して来たの。それは、エリヤ。貴女の持つその黒奇石とアンフェルに代々伝わる聖者セルギオスが生み出した秘儀ルミナで可能になるわ」

セレーネがエリヤの首から下げられた石を見た。エリヤは思わず石をぎゅっと両手で握りしめた。

「御石が?」

「ええ、あなたの持つその弓。それはアンフェルで造られた物よね?貴女の所でこれを聖なるものとして言い伝えてきたということは、何かそう言った伝承があるんじゃないかしら」

エリヤは息を飲むと、感動したように目を輝かせ始めた。そして弾かれたようにセレーネの足下に跪いて主を拝むように彼女を見た。

「あなたが高き所から来た救世主なのね。森の民は代々あなたが遣わされる時を待ち、いざという時はお守りする事を誓ってきました。こうやってお会いできて光栄です。ええ、私の持つ神弓ツキヨミはかつて現れた救世主様がお使いになっていたものです。我々は貴女様をお守りするために、そして御石を守り抜くためにこうやって固く誓いを守ってきました」

「ありがとうエリヤ。でもその喋り方は少し堅苦しいわ。いつもの喋り方にしてくれないかしら」

「え、っそ、そう?わかったわ。これも何かの縁ね。私はあなたを守るわ、セレーネ。でも石は…。本当ならいくらでもあなたの必要とする分だけ用意することができるのに、今はこの一つしかないの。足りないしこれは森の民にとっても宝物だから、分けてあげたいのはやまやまなんだけど。そうだ、取り返せばいいのね!」

エリヤは拳を握りしめて言った。

「えーと、つまり、セレーネは世界を救う使命があって、エリヤは代々彼女のような人を守る役目があったの?」

混乱したように眉間を抑えながらイーサンが口を挟んだ。

「そういう事になるわね」

「うーん、なるほど。で、ソロンさんは世界の危機に気付いてセレーネと同じ事をしようとしてるって事で良いのかな」

その問いにセレーネは首を振った。

「いいえ、それは無理だわ。聖者セルギオスが生み出した秘儀ルミナはアンフェルの人間にしか使えないの。いくらソロンさんが優れた魔術の使い手といってもエリスの人には根本的に無理なのよ。考えられるのは、聖者が現れる前に行われていた方法、つまり二つの世界から相応の犠牲を求める方法ね」

「犠牲?おいおい穏やかじゃないな」

ルミエールが聞き咎めた。アウダスも不穏な言葉に反応して真剣な目で彼女を見る。

「ええ、そうね。でも、聖者が現れるまでずっとこの方法で世界はバランスをとってきたの。二つの世界の不足したエネルギーを補う為にエリスとアンフェルの人々がその命を犠牲にしてね…。正反対の二つの存在を素粒子レベルで衝突させ、エネルギーを生み出す対消滅。これによって世界はバランスを保ってきたの」

「じゃあ、ソロンはまさか」

アウダスは彼女の話から何か恐ろしい事が起こる事をすぐに察して血相を変えた。彼女も辛そうに頷く。

「私が知る限り、エリスの人が世界のバランスを取り戻す方法はこれしかないわ」

「止めないといけない!」

口々にその声があがった。ヘリオスは意を決して話してくれたセレーネに暖かく信頼のこもった目を向けた。

「セレーネ。話してくれてありがとう」

「ううん、ヘリオス。私の方こそ礼を言うべきだわ。ありがとう」

彼女は答えた。

セレーネは今まで抱えてきた事をすっかり話してしまった。それで彼女の中に抱えていた気持ちの多くが軽くなった。でも肝心な所で彼女は真実を語らなかった。いや、何も知らない彼らを前にそれを言ってしまう事はあまりに酷で、彼女にはまだ出来なかったのだ。もしかすると止められるかもしれない。それほど過酷な使命が彼女の細い肩にのしかかっていた。

かつて救世主と呼ばれた人々は、秘儀ルミナを使い世界を救ってきた。森の民の伝承にはこうある。

世界に安寧をもたらすべく高き所より救世主は降臨す。その後暗き世界に光が溢れ、救世主は光となりてこの世の全てを見守り給う。

救世主はその存在と引き換えに、世界に調和をもたらしてきた。その後の平和な世界をその目で見ることも叶わずに。

 

 

 

つづく

ただひとEP26

 

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