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小説 ただひと  EP25-3 残された記録

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 
EP25-3 残された記録

 

イーサンは広い学都の研究施設を横断して、かつてソロンが使っていた研究所まで案内してくれた。

ソロンの部屋の前まで来ると イーサンが壁に取り付けられたボタンに何かパスコードのようなものを入力した。自動で扉が開いた。中は物が散乱していて、7畳ほどの狭い部屋の中に本棚と書斎机と器具の並ぶ研究机がある。器具は埃を被り、本があちらこちらに無秩序に散らかっている。

イーサンはその中に車椅子で入るのは無理だと思ったのか、ボタンを押して変形させると立ち上がって中に入った。

「僕はソロンさんを尊敬していたんだよ。色んなことを知ってるし、色んなことができる。しかもあの人はその知識や研究成果を全て困っている人や苦しんでいる人のために使ってきた。なんの見返りも求めずにね。これが学者の鑑だと思っていたし、他の多くの学者も彼のことを敬愛していた。でも最近のソロンさんは人が変わってしまったようだね。本当に残念だよ」

イーサンは本棚に近づくと一冊の本を取り出して埃を払った。

「実は色んな学者がこの中の本を調べたり、残っていた研究記録を調べたりしたんだよ。でも誰も読めないような文字で書かれていて、結局わからずじまいなんだ」

そう言って彼は本を開いて見せた。見たこともない記号や文字が並んでいる。だがそれを見たセレーネが「あ!」と叫んだ。

「これ、アンフェルの文字よ」

「ということは、セレーネには何が書いてあるのか読めるのか?」

アウダスが期待を込めて彼女を見た。

「ええ。待って、読んでみる」

セレーネは本を受け取ると読み始めた。

「私は、世界の崩壊を防ぐために一つのアイデアを得た。私はこれを敢然と行う。私の命は、このために捧げても構わない…。どう言うこと?まさかソロンさんはアンフェルとエリスの危機に気づいていたと言うこと?」

今度はセレーネが驚いたように顔を上げ、辺りを見回した。

「ここにはまだソロンさんの記憶が残っているはず。術で、思念を再生できるかもしれない。みんな私の後ろにさがって」

そう言うとセレーネは小さな声で長い呪文を唱え始めた。そして本に息を吹きかけた。本がにわかに淡い光をまとって浮き上がり、ページからはらはらとか細い光がこぼれ落ち始め、それが集まり荒い画像となって形を成し始めた。

 目の前にソロンの幻影が現れた。アウダスはそれを見て息を飲み、思わず駆け寄りそうになった。ソロンは計器を前に頭を抱えている。

『どうして、こんな事になってしまったんだ。これでは、この世界もいずれ…』

そして再び熱心に計器や記録に目を通し始めた。

 次に映し出された彼は目に涙を浮かべていた。彼は研究机の上にあるものに手当たり次第八つ当たりをしている。

『こんなもの!こんなもの!こんなもの!何の役にも立たないではないかぁ!』

研究机の上に山と積まれていた本や記録、器機が床に落ちていく。そしてふっと力尽きて、彼は悶えるように机に突っ伏した。

『私は今まで何のために知を…!』

ソロンは髪をかきむしり、苦しそうに呟いた。そして、まだ残る研究資料を握りしめて悔しそうに震えるため息を吐いた。

『世界は何故、このような犠牲をなくしては…存続できないのか…!』

その絶望的な声を最後に映像は途絶えた。この本に書き留められた彼の記録はここで終わっていた。本は役目を終えてパタリと床に落ちた。

 その幻影を見終わって、誰一人言葉を発することが出来なかった。

 

つづく

 ただひとEP25-4

 

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