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小説 ただひと  EP24 森の民(2)

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 EP24 森の民(2)

 

 その頃、洞窟の入り口では森の民と思しき少女が弓を手にディオンと戦っていた。しかし明らかにディオンの方が優勢で、余裕の表情の彼とは対照的に、少女は肩で息をしている。周りにはディオンの配下と思しき魔物たちが取り巻いているものの、手出しはせず二人の戦いを見守っている。

「森の民は未だに弓なんて前時代的なものを使ってるのか。これじゃ取り残されるのも無理はないよな」

「神弓ツキヨミを侮辱するのか!」

「侮辱も何も実際俺に負けているじゃないか。そろそろ文明の利器を前に諦めたらどうだ?」

少女は歯噛みした。ディオンは溜息をつくと水の魔弾を装填し、躊躇うことなく彼女めがけて撃った。水の塊が直撃し少女は壁に叩きつけられる。ディオンは歩み寄ると倒れている彼女の襟首を掴んだ。

「おい、この森には珍しい鉱石があるはずだ。その場所を教えろ」

少女は朦朧とした意識の中首を振った。

「ち、役に立たないな」

彼は舌打ちすると手を離した。そして落ちている弓を踏みにじった。

「弱いのに、弱いままでいたいのか」

ディオンは吐き捨てるように呟くと、洞窟の奥へと続く道を魔物たちを連れて進んだ。

 

 ヘリオス達が聖所へと続く洞窟にたどりついた時、入り口に少女が倒れていた。

「大丈夫か?」

ヘリオスの声で、少女はかすかに目をあけると震える手で洞窟の奥を指さした。

「御石が…。止めて…」

「分かった。君たちの宝は守る。マナ、彼女を治療してやってくれ」

「うん!」

ヘリオスはマナに少女をまかせ、皆で奥へと続く道を急いだ。

 洞窟の中はよく整備されていて、所々松明が掲げられて明るかった。地面もよくならされていたおかげで、途中何度か知の達人の配下と思しき魔物たちが襲ってきたものの難なく戦うことができた。隅々まで注意が行き届いていた。それはそのままこの洞窟が森の民にとって神聖な場所だということを示していた。普通であれば外の人間は決して入れない。彼らにとって非常に大切な石をその奥に隠していて、その神秘性から、風のうわさで皆の知る所となっていた。

「しかしどうして知の達人は森の民の石なんて欲しがってるんですか?」

ヘリオスは不思議そうにアウダスに尋ねた。

「俺が知るはずがないだろう。だが、今までのソロンであれば考えられないようなことだ」

アウダスは苦々し気に言った。ソロンが他者の宝物を奪うなど、彼自身想像したこともなかったし考えられない事だった。しかも森の民を傷つけて略奪に近い形で奪おうとしている。どんな理由があろうとも決して許されることではなく、アウダスは兄弟の行いに怒りを感じていた。

 洞窟を進んでいくと呪術的な飾りが道の脇に掲げられるようになった。そしてずっと進んで行くと広い場所に出た。そこには、祭壇の前に人型の魔物達とディオンの姿があった。

 ディオンは黒く輝く石を手に魔物相手に指示を出していた。魔物達は石を台車に山と積んで今にも運ぼうとしている。

「この位あればいいだろう。おい、お前これを知の達人のところまで運べ。…にしても、こんな石ころ一体何に使うのか…。まあ、凡人の俺に分かることでもないか」

「ディオン…!」

振り向くと、そこにはヘリオス達の姿があった。

「ふん、来たか」

ディオンは冷ややかな笑みを浮かべた。ついこの前まで仲間だったことなど忘れてしまったかのような冷たい表情だった。

「その石を何に使うつもりだ」

「さあね。俺にも分からない。俺はただ石を集めて来いとしか言われてないからね」

「そのせいで、沢山の人が傷付いています!」

セレーネの言葉でなぜかディオンはふきだした。

「あぁあれか。あれはあいつらが悪いんだよ。さっさと逃げればいいものを。無闇矢鱈と抵抗してくるから…。ほんと馬鹿だよな」

「村を襲われて抵抗しないやつはいない!」

ルミエールがディオンの言葉に怒った。

「ああうるさいな。俺が悪い、知の達人が悪い。すいませんでした。これでいいのか?」

「ふざけるな!」

ディオンの人を食ったような返答にアウダスまでもが怒りはじめた。その様子を冷笑しながらディオンは石を放り投げた。

「はは、何を言っても駄目だよな。だって俺達はもう敵同士なんだから。向かう道、向かう道、どちらかがどちらかを退けなければならないんだからな」

ディオンが銃を構えたので、ヘリオス達は身構えた。

「さあて、改良型の威力をお前らで確かめるとするか。あの人が俺一人でも戦えるように連射できるようにしてくれたからな!」

ディオンは腰から下げていた袋の紐を解き白い粉を地にまいた。するとそこが沼のようになり地面から黒いローブをまとった骸骨が二体現れた。

「ここで決着をつけてやる!死霊ども、狙いはあの赤マントだ。体力を削りとれ。とどめは俺がさす」

ディオンはアウダスを指した。死霊達は静かに頷くと大鉈をふりあげてアウダスめがけて向かっていった。アウダスはすぐさま刀で死霊を切り捨てようとしたが空気を切る音がするだけで全く効果がない。

「くっ!」

アウダスは振り下ろされた鉈から辛くも逃れたが今度はそれを狙っていたようにディオンの魔弾が三発連続で命中した。以前は魔弾が命中してもびくともしなかったアウダスだったが、今はふらついてなんとか耐えているといった様子だった。連射できるようになっただけではなく威力もあがっているようだった。

「三発命中してまだ立っていられるのか。じゃあもうワンセットプレゼントしてあげるよ」

ディオンは容赦なく魔弾を装填し、傷を負っているアウダスめがけて撃った。全弾命中し、爆炎があがり煙のあとにはアウダスが倒れていた。

「アウダス!」

まさかのアウダスの敗北に皆が目を疑った。ディオンは誇らしげに銃を弄びながらヘリオスを見た。

「どうだヘリオス。この強さ、俺はもう一人でも戦えるぞ」

自慢げに言うディオンだったが、セレーネの魔法が迫ってくるのに目を見開いてとっさの所で逃げた。ディオンは受け身をとって立ち上がると舌打ちした。

「おい死霊ども。あの女を止めろ」

ディオンは苛立たし気にセレーネをにらみつけると死霊達に命令した。二体の死霊は音もなくセレーネに向かっていく。

「させるか!」

ルミエールが途中で斬りかかるもさっきのアウダスと同様、空を裂く音がするだけで何の効果も与えられない。代わりに死霊がルミエールに鎌を振り下ろし負傷させた。

「うっ、こいつ普通の攻撃が効かないだと?」

ルミエールは左肩をやられてしまった。ヘリオスは彼をかばうべく加勢する。

「ダメよ、ルミエール、ヘリオス。逃げて!この死霊には普通の攻撃は効かないわ」

「でもだからって、セレーネを見殺しにできない!」

ヘリオスは死霊たちの注意をひくためだけに剣を振り回している。ルミエールも片腕を振り回しながら応戦している。セレーネは二人が時間を稼いでくれている隙に呪文を唱え始めた。しかし鈍い音がして、今度はルミエールだけでなく、ヘリオスまで斬りつけられてしまった。死霊は音もなくセレーネの方へ向かってくる。それを見たセレーネは恐怖のあまり呪文の途中で言葉を失ってしまった。途端に発動されようとしていた魔法が消え失せてしまう。

「あ、大変。魔法が…!」

セレーネはもう一度呪文を唱えはじめたが目の前まで来た死霊は、鎌の餌食とするべく彼女めがけて腕を振り上げた。セレーネはせめてみんなを助けようとして最後の呪文を恐怖の中で唱え続けた。その時背後から少女の叫び声が聞こえた。

「神弓ツキヨミ!邪な者どもを滅却すべく我に力を!」

セレーネのすぐそばを空を裂く音が走り、死霊の恐ろしい悲鳴が響いた。そしてその時、セレーネの呪文も終わり、魔法が発動された。稲光のようなそれは死霊めがけて飛んでいき一瞬で死霊を塵に変えた。

 そして振り向いた時、そこには先程の少女とマナがいた。

「あーもう。みんな僕がいないとすぐ無理しちゃうんだから!」

マナは傷だらけのヘリオスやルミエール、そしてアウダスを見てあきれたように言った。そしてすぐさま回復のために走り回った。

 弓を手にした少女はディオンをにらみつける。

「我々の宝をどこへやった!」

「宝?あの石ころのことか。あんなものが宝だとはつくづく未開ぶりに呆れるね。あれは知の達人のもとへ運んだよ。あんな石ころでも何かの役に立つんだとよ。良かったじゃないか」

「返せ!あれは先祖代々の宝だ」

「無理だよ。もうここにはない」

少女は全身の毛を逆立たせるがごとく怒り、ディオンめがけて矢をはなった。

「だからそれはもう効かないって」

ディオンはよけると、今度はまた銃で魔弾を放った。炎が彼女を直撃する。

「ダメ!ディオン!やめて」

セレーネが少女にかけよりかばった。

「抵抗しなければいいんだよ」

「やめろディオン!」

マナの力で回復したヘリオスが剣を手に止めに入った。

「たくうっとおしい」

ディオンは風の魔弾を三発装填し、一つはヘリオスに、一つはルミエールに、最後はアウダスに向かって放った。二つは命中し、吹き飛ばしたものの、アウダスは身を翻してそれを避けた。

「力を得たのに、それをこんな風に使うのか!」

アウダスは剣の切っ先でディオンの銃を両断した。装填されていた炎の魔弾が爆発した。

「あ、くそ!よくも!」

ディオンは悔しそうにアウダスを見た。

「仕方ない。ここは一旦引いてやる」

ディオンはポケットから一枚の札を出すと壁に貼った。するとその場に亀裂が入り黒い闇の中へと彼は入っていった。

「ディオン、俺達…!」

風の魔弾で岸壁に叩きつけられたヘリオスは訴えるように彼の名前を呼んだが、彼はうんざりとした顔で「もういい加減にしてくれよ」と言って闇の中へと飲まれていった。そして亀裂は口を閉じて元どおりになった。札が壁から剥がれおち、黒い炎を発して燃え尽きた。

 その場にはもう何の痕跡もなかった。

「あれはきっと空間移動の技よ。ディオンが使えるとは思えないから、きっと知の達人の力で…」

「またソロンが…」

セレーネの言葉を聞いてアウダスはまた辛そうに俯いた。自分の兄弟があらゆる形でその知識と能力を悪用している。それなのに止めることもできずにいる自分が彼は歯がゆかった。

 マナは炎の魔弾で傷ついてしまった少女を治療した。少女は起き上がるとディオンが石をもっていなくなってしまったことを知り、悔しそうに地面をたたいて泣き始めた。

「私が、私が未熟なばかりに、神弓ツキヨミの力を引き出せなかった。魔物にこの聖なる場所を蹂躙させてしまった」

ヘリオスは少女を慰めようとしたが何も言うことができず背中を撫でた。

「あなた、お名前は?」

セレーネが尋ねた。

「私?私はエリヤ。ここを守る巫女よ。あなた達は?」

「私はセレーネ。みんな国軍の一員として知の達人を追っているの」

「そうなの?」

少女は外の人間が珍しいのか、訝しげに見ていたが、アウダスに気づくと彼に詰め寄った。

「あなた、力の達人ね?私達の宝を取り戻すために力を貸してほしいの。お願い!」

エリヤは彼の手を掴んで離さなかった。アウダスもソロンのせいで彼女達が犠牲を強いられている以上断るわけにはいかなかった。

「分かった共に行こう」

「ありがとう!」

エリヤは少しだけほっとしたように表情を緩めた。しかしすぐに悲しげな表情になって一つだけ残っていた石を大切そうに拾い上げた。それはディオンが弄び、最後には放り投げた最後の一個だった。

「御石がどこに進めばいいか教えてくれるはず。私を、この未熟なエリヤをどうか導いてください」

エリヤはひとしずく涙を流した。石はそれを吸い取るかのように輝いた。

 

つづく

ただひとEP25-1

 

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