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小説 ただひと   EP23 知の達人を追って(2)

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 EP23 知の達人を追って(2)

 

 イルノク村の近くまでたどりつくと少しずつ魔物が現れるようになった。魔物はヘリオス達を見つけると近づくなと言うかのように威嚇してきた。それでも近付こうとすると襲いかかって来る。ヘリオス達はそうした魔物達を撃退しながら村までたどり着いた。

 村は完全にゴーストタウン化していた。しかし、至る所に生活の痕跡が残っていて、つい先日まで人が生活していた事が伺えた。ヘリオス達は一軒一軒調べ知の達人の手がかりがないか探していた。そして一番村はずれの家を調べている時外からすさまじい轟音が聞こえてきた。

「何だ!?」

まるで岩が天から落ちてきたかのような音だった。家中が揺れ、家具が倒れそうになった。ヘリオス達は外に出て辺りを見回した。断続的にそうした音が響いてくる。

「あっちだ!」

ルミエールがそばの林を指し、一行はその先へと急いだ。

 音を頼りに向かった先には平にならした円形の広場があった。しかしその端には収穫された穀物が山を作っていて、その広場が村人たちの畑を無理にならしたものだと分かった。そこであの巨大なゴーレムが他の魔物達と一緒に巨石を円形に配置している。先程の轟音はそれだった。そしてその肩に目を凝らすと知の達人と思しき人影が見えた。

「見つけたぞソロン!」

アウダスは声を張り上げた。その声で知の達人はゴーレムの肩の上でゆっくりと振り向いた。

「アウダスか…」

「お前のせいで村を追われた人々がいる!これ以上、勝手なまねはさせない!」

「あの人達に伝えてくれ。もうすぐ終わるから、そうしたら戻ってきて前と同じようにここで暮らしてくれと」

「は!?何を訳の分からないことを…!お前がこんな真似をしなければ済む話だろ!今すぐにやめろ!」

「無理だ。断る」

「じゃあ力ずくで止めてやる!」

「もうすぐ終わる。せっかくの努力をここで無駄にするわけにはいかない」

ソロンはゴーレムや配下の魔物たちに何やら指示を出した。

「そのまま続けてくれ。ここは私が時間をかせぐ」

彼はゴーレムから飛び降りると宙空で静かに杖を掲げた。すると、雷鳴が轟いて急に空が暗くなり、天を覆うほど巨大な魔法陣が現れた。そして暗幕が降りてくるように辺りが闇に包まれて隔絶した世界をそこに生み出した。ゴーレムや魔物達はその外にいて、あの地響きだけがこちら側まで聞こえてくる。

「さあ、相手になろう」

ソロンはヘリオス達の前に降りて来た。

彼は手を伸ばして印を切る。すると光り輝く二頭の獅子が現れた。 獅子は悠々とソロンの前に進みでると咆哮した。ヘリオスは剣を抜く。

「知の達人、ここに住んでいた人達が今どんな気持ちで逃れているか分かりますか!あなたはもうすぐ終わるから、そうしたら戻って生活すれば良いと言うけれど、畑を荒らされてどうやって生活していけというのですか。あなたは人の心が分かっていない!」

「確かに君の言うとおりだろう。だが私はこの他に術を知らないのだ…」

ヘリオスの言葉にソロンは辛そうに頷いた。

ソロンのそばにいた獅子が唸り声をあげ、ヘリオスに向かっていった。鋭い牙と爪が彼を捉えようとギラつく。ヘリオスは獅子の攻撃を防ぐべく剣を振るったがうまくかわされてしまう。そして返り討ちにあいそうになっているところをそばにいたアウダスが見事斬り伏せた。けれどその音は軽く、獅子は煙をかき消すかのように消えてしまった。

「幻?」

二人は目を見開いたが、もう1匹が咆哮を発すると再びあの獅子が現れた。

「なんだこれ。キリがないじゃないか」

ルミエールが文句を言いながらもう一方の獅子に斬りかかった。

復活した獅子はアウダスを睨み付けると牙を剥いて突進して行った。獅子は鋭い牙で彼を捉えんと口を広げる。あやうく腕を持っていかれそうになったが、すんでのところで剣が盾となり防いだ。それでも勢いに負けて押し倒され、アウダスは牙を剥く獅子の下で必死にそれを防いでいる。頑強な両顎が彼の剣を今にも噛み砕いてしまいそうだった。それを今度はヘリオスが二、三度攻撃して、さっきと同じように消した。

「こいつらはきっと足止めだ。ソロンを、ソロンを止めろ!」

アウダスがセレーネに叫んだ。

セレーネはそれに答えるように呪文を唱え始めた。彼女の頭上に無数の星々が生まれ、ソロンめがけて尾を引いて降り注ぐ。激しい爆音とともに土煙が上がる。しかしソロンは無傷で立っていた。強力なバリアを張っているのか、彼の周りがかすかに輝いている。セレーネの魔法はバリアによってコピーされ、今度はヘリオス達の頭上に降り注いだ。

「うう…。みんな大丈夫?」

マナは自身も傷つきながら周りの治療に奔走した。

「一人、魔力の強い者がいるようだな」

ソロンは杖を下ろすと珍しそうにセレーネを見た。セレーネはよろめきながら立ち上がると毅然と答えた。

「私はセレーネ。アンフェルの者です。あなたは一体何のためにこんな事をしているの?そして私達のことも研究していたと聞きました。一体私達の事をどこまで知っているの?」

ソロンは驚いたように目を見開いた。

「アンフェル?アンフェルの者がエリスに来たのか。まさか、君が選ばれた者か?」

「そうよ。エリスとアンフェルのバランスを取り戻しにここへ来たの」

「まさか、こんな少女に…」

ソロンはみるみる深刻な表情になっていく。

「アンフェルの者が来たということは急がねばならないな…この私で足りるか分からないが」

そう言うと、ソロンは一同を睥睨した。

「邪魔はさせない。私の命にかけて」

ソロンは杖を構えて何やら呪文を唱え始めた。

「何かの魔法を使うみたいだ。いまのうちに止めよう」

ヘリオスが駆け出した。が、ソロンは呪文を止めることなく彼を睨みつけると杖の先を向けた。すると突如ヘリオスの前に見えない壁があらわれ弾き飛ばされた。

「ソロン!魔法を止めろ!俺の話を聞け」

アウダスは剣を手にその見えない壁に切り込んだ。しかし鋼鉄と鋼鉄がぶつかる時のような激しい音がして剣の先が火花を散らすばかりで一向にそれを砕く事ができない。

「アウダス、私の邪魔をするな。私にはやらなければならない事がある」

「やらなければならない事って何だ!村人を追い出したり魔物を使って畑を荒らしたり、それに何の意味があるって言うんだ!」

「私もそれは本意ではない。だが、そうしなければ…そうしなければならないのだ」

「ソロン、昔のお前なら村人を救おうとしたはずだ。俺と同じように今のお前を止めようとしたはずだ!」

「確かに今の私は多くの人に迷惑をかけている。だがアウダス、私の気持ちは昔と少しも変わっていない」

ソロンは杖を左右に振った。するとアウダスの攻撃を防いでいた壁は炸裂し、その衝撃でアウダスも弾き飛ばされた。一方ソロンは中断していた詠唱を素早く再開した。そしてそれが終わると天に巨大な魔法陣が発生した。

「アウダス、私は同じだ。信じてもらえないかもしれないが…」

ソロンは悲しそうな目でアウダスを見た。魔法陣は青白く強烈な光を放ち、辺りを包み込んでいく。そして飲み込んだ全てのものの時間を止めてしまった。その中でただ一人ソロンだけが動いている。アウダスも、ヘリオスも、セレーネも、皆そのままの態勢で固まっている。

「終わったぞ、ソロン」

闇の外側から低い声が響いてきた。

「分かったロスト。もう十分だ」

そう言うとソロンは再び杖を振った。途端にあたりを覆っていた闇が溶けて行き、先ほどの村が現れた。ソロンはゴーレムの肩に乗ると、固まってしまったアウダス達を見下ろした。

「アウダス、お前の望み通り私は消えよう。村の人達にすまなかったと伝えてくれ」

そして魔物を引き連れて村の外へと消えていった。

一行が元どおり動けるようになった時には、ずいぶんと長い時間が経ってしまったようだった。昼間だったはずの空は真っ暗闇になっていた。

「今はいつなの?」

セレーネと同じことを皆が思っていた。後に分かったことだが、ヘリオス達はソロンと戦っていた間に6日も過ごしていたのだった。

 

 

 つづく

 ただひとEP24

 

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