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小説 ただひと EP22 セレーネの秘密

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 

EP22 セレーネの秘密

 

 ヘリオス達は森を抜け、最初の村にたどり着くと旅の疲れを取るために宿に入った。小さな宿だったが清潔で家族的な雰囲気があり、柔和な笑顔の女将が部屋まで案内してくれた。セレーネは旅の疲れからかようやく部屋につくと安堵のため息をついた。

「久しぶりにちゃんとした場所で休める気がするわ」

ずっと薄暗くジメジメしたあの森にいたせいだろう。終始気が休まらなかったせいもあり、宿屋のもてなしがセレーネには余計にしみいった。

各々は重い荷物や防具を外して床に置いた。

「そうだヘリオス、お前酒って飲めるのか?」

ルミエールが防具を外しながら尋ねた。

「え?いや村を出るまで飲んだこともなくて、飲めるかどうかも分からないんだ…」

「そうなのか?じゃあ試しに飲みに行こうぜ」

ルミエールは良い連れができたとばかりに喜んで誘った。それを見たアウダスが割って入った。

「ルミエール。ヘリオスに無理に飲ませようと考えているな?そういうのは見過ごせないな」

「アウダス、固いこと言うなよ。じゃあお前も付いてくれば良いじゃないか。そしたら俺達がハメを外さないよう見張っていられるだろ?」

ルミエールは一人で酒場に行くのが嫌なようで、とにかく仲間を連れて行きたがっているようだった。アウダスは彼らが酔っ払って問題をおこしはしないかと心配だったので渋々彼の提案にのることにした。

「…仕方ない。俺も付いて行く」

「そうか!よっし、じゃあ行こう。あ、マナ。セレーネ、ちょっと出かけてくるから宿でゆっくりしててくれ」

ルミエールは二人を連れて上機嫌で出て行った。

「あーあ。みんな出ていっちゃたね」

マナは戸口の方を見ながらセレーネに話しかけた。

「セレーネは行かないの?」

「うん。私は人の多いところにいったら危ないから…。それに今日はゆっくりしたいし」

セレーネはベッドのへりに腰かけた。白いシーツが彼女の重みを受けとめてしわを寄せる。彼女はマナが傍にいてくれるおかげで以前のように極度に疲弊することはなくなったものの、連日の強行軍でだいぶ疲れていた。

「そういえばセレーネ。セレーネの事あまり聞いたことがなかったけど、セレーネのいた世界はどんなところなの?」

「私の世界は…こことは全く違うところなの。色々なものの色が薄くて、そうね。霧でかすんだように見えるかな。それからエリスよりも魔法を使える人が多くて、この世界にはないものも沢山あるの」

「へーそうなんだ。どんなところなんだろう。僕も行ってみたいな」

セレーネはマナの無邪気な反応に微笑んだ。

「でも千年前の工場跡がまだ汚染されていたり、世界が端から溶けていくように消えていったりしてみんな苦しんでいるの」

「え、そうなの!?そっか、セレーネはその世界を救うために来ているんだよね。セレーネ前言ってたもんね、このままだと大切な人も大切なものも全部消えて無くなってしまうって」

「ええ」

「僕ね、その話を聞いた時セレーネは頑張り屋さんだなって思ったんだ。あの時僕はワイズから離れたくなくてそのことしか考えられなかったんだ。でもセレーネは自分のことよりも世界のことを考えてた。そのためにすごく頑張ってエリスにまで来て旅をしている。びっくりしたし、僕も何かしなくちゃいけないって思ったんだ。だって、大切な人が消えてなくなってしまうなんて嫌だもん。僕もワイズが消えてしまったらすごく悲しい。だから僕、セレーネの気持ち少しだけ分かるよ」

「ありがとうマナ」

セレーネはマナの素朴な優しさが嬉しくて手をとった。大きくてゴツゴツとした岩のような手だった。セレーネはマナの手に触れると体の内側から温かい気持ちになる。だからだろうか、彼女の中で不意にアンフェルに残してきた友人達の顔が浮かんだ。一人は髪の短い少女エフィ。いつも元気に笑ってセレーネを励ましてくれた。もう一人は寡黙だが、いつもそばで助けてくれた青年ジーン。二人とは幼馴染でいつも一緒だった。セレーネは、アンフェルが危機に瀕した時は救世主となるべく選ばれた存在だったため、子供の頃からその期待を一身に受けてきた。二人ともそれを分かって支えてくれていた。だから彼女自身いざとなれば身を呈してアンフェルを救うものだと思っていたし、エリスに来る時もその覚悟を持っていた。けれど、別れ際の悲しそうな二人の顔が彼女の脳裏にずっと焼き付いている。使命を果たすということは、二度と彼らには会えないという事だった。セレー

ネは、それでもアンフェルが救われるのなら構わないと自分の中の悲しみに目をつぶってきたのに、ふと思い出して胸が締め付けられた。

「セレーネ、どうしたの?」

マナがびっくりして尋ねた。彼女は自然と涙を流していた。

「どうしたのセレーネ?どこか悪いの?」

「ううん。マナ、大丈夫。なんでもないの。なんだか疲れたみたい…。だから少しの間だけこうさせて」

セレーネは手を伸ばしてマナを抱きしめた。マナの温かいエネルギーが彼女の中に流れこんでいく。マナはこの世界で彼女が触れられる唯一の存在だった。エリスはセレーネのようなアンフェルの人間にとっては危険な土地で、触れられれば溶けてしまう。けれどマナのお陰で彼女は旅を続けることができている。一人で背負っていた使命の重みがマナのお陰で和らいで、セレーネの張りつめていた緊張の糸がわずかに緩んだ。

「マナ、私みんなを助けるためなら光になってもいいと思ってるの」

「?それどういうこと?」

マナは首をかしげた。

「光になってずっとみんなの傍にいて、みんなを守ることができるの。だから私はそのためにここへ来たの。そのために旅をしているの。大地のエネルギーを秘めた石がこの地のどこかにある。だからそれを使えばエリスもアンフェルも、みんなを守ることができる。マナ、私あなたのこと大好きよ。だから私、あなたのことも守りたい」

「うん。僕もセレーネの事大好きだから僕もセレーネの事守るね」

マナはぎゅっとセレーネを抱きしめた。マナのエネルギーがセレーネの消耗したエネルギーを満たしていく。セレーネはマナの温かいエネルギーに包まれたまましばらくの間目を閉じていた。

 

 

つづく

ただひとEP23

 

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