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小説 ただひと  EP21 魔物使い(2)

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 EP21 魔物使い(2)

 

「今度は南西の場所に現れたらしい」

アウダスが皆に地図を見せて言った。道中旅の商人から仕入れた情報だった。

「そこに行くためにはあの山を越えないといけない。厄介だな」

ルミエールは腕をくんでうなった。

「どうして厄介なんだ?」

ヘリオスが不思議そうに尋ねたので、それにアウダスが答える。

「そうか、ヘリオスはここから離れたドートニク出身だったな。知らないのも無理はない。あの山には昔から毒をもった昆虫や生き物が多く生息しているんだ。その中には相手を動けないように石化させるタイプのものもいる。よほど理由がなければこの山には誰も近づかない。だが、ソロンがその向こうの地にいるとなるとこえないわけにはいかないな」

「もし誰かが毒で歩けなくなっても僕がいるから大丈夫だよ」

マナがはりきって言った。アウダスは少し驚いたように尋ねた。

「マナは毒の治療もできるのか?」

「うん。でも普通の治療よりもちょっと疲れるかな」

「そうか、では山に入る前にたくさん毒消しと治療薬を持っていく必要があるな」

このあたりにくわしいアウダスとルミエールは共に厄介な場所と言うが、それを知らないヘリオスとセレーネは世の中にはそんな場所もあるのかと驚いていた。

  街道を抜け森の入り口までくると、いよいよ不気味な感じがましてきた。枝葉の長い植物が空を覆い隠して光が十分に入ってこない。あたりは薄暗く、じめじめとしていかにも薄気味悪い。ヘリオス達はそれぞれ装備を新しくし、万が一に備えて治療薬も買い込んできたが、それでもこの雰囲気を前に不安を掻き立てられた。

「気を付けて進もう。モンスターが出てきても不用意に刺激するな」

アウダスは皆に注意を促し地形に疎いヘリオスやセレーネを後方にやり、自身は先頭を歩いた。

 しばらく進むと大きな古木のそばに人影が見えた。一人は女性、一人は男、そしてもう一人は人の姿をした石像だった。

「あ、あれはアウダス、国軍だ!」

アウダスに気づいた男が血相を変えて叫んだ。それに女の方も驚いてすぐさま身構える。

「おい、まて」

アウダスが制止する間もなく女がいきなり攻撃をしかけてきた。一同は訳も分からないまま応戦し始める。

 女はアウダスが剣を構えたので一旦間合いをとると、今度は口笛を吹いて蛇のようなモンスターを呼んだ。草むらから出てきたそれを女は操っているようで、もう一度口笛を吹くと今度はアウダスに襲いかかった。その間男は石像を抱えて移動しようとしているが重すぎるせいかわずかしか動かない。そしてアウダスが魔物を切り伏せ女の武器を奪い組み伏せた時「きゃ」と叫ぶ声がした。それを聞いた男はハッと振り返り、石像を下ろすと、腰から下げていた短刀を握りしめて攻撃してきた。

「姉さんを離せ!」

「おっと」

アウダスは腕を切り付けられそうになったがすんでのところでよけてその刀もすぐに手刀で叩き落とした。そしてよろけた所をルミエールが羽交い締めにして攻撃を止めさせた。

 二人は取り押さえられて、ようやく攻撃をやめた。

「一体何故攻撃をしかけてきたんだ」

アウダスが尋ねると男はおどおどとした様子で答えた。

「だってあんたは国軍だ。俺達みたいな根無し草、掴まえるのが仕事だろう」

それを聞いたルミエールは呆れたようだった。

「なんだそれ、いくらなんでもそんな横暴をするはずがない」

しかしアウダスはモンスターが彼らの命令に従っている様子を見て、不意に思い出したように顔を上げた。

「いや、待て。お前達魔物の飼育を生業にしている一家か?」

「ああ、そうだ。トリノだよ」

「なるほど、それで分かった」

アウダスは納得したのか女の手をほどき、ルミエールにも解放するように言った。

「知り合いなんですか?」

ヘリオスが尋ねた。

「いや、知り合いと言うより、昔指名手配されていただけだ。トリノは放浪しながら各地の魔物を集めて飼育している一家なんだ。国王のリヴァイアサンベヒモスも元はと言えばトリノが育てていたモンスターだ。だがユトレヒト国王の命令である日を境に指名手配を受けるようになっていたんだ。国王としては強いモンスターを自分以外の者に渡したくなかったんだろう。それにトリノも国に縛り付けられることを拒んだ。そのせいもあって、長い間指名手配を受けていたんだ。だがそれはもう過去の話だ。国王はもういない。だから俺もお前達を捕縛する理由がない」

「え?じゃあ」

男と女は顔を見合わせた。

「ああ、もう大丈夫だ。国に帰ってきてもいいし、自由に放浪してもいい。ところで、気になっていたんだが、あの石像はひょっとすると本当は人間なのではないか?」

「そうさ。ペトラ病の特効薬を作るために石化させるモンスターを捕まえようとしたらこんな目にあってしまったんだ」

女が悲しそうに答えた。しかしそれを聞いていたマナがぱっと前に出てきた。

「じゃあ、もとは人間なんだね。僕治せると思うからやってみるね」

「え、あんた。そんなこと出来るのか?」

二人はびっくりしてマナを見守った。マナは石像に近寄ると全体を撫でるように手を当て、力を集中させはじめた。マナの手が光り始め、そこから光が伝わり石像もだんだんと色を取り戻し始める。そして手や足がもぞもぞと動き始め最後には石の膜が剥がれ落ちて元の姿へと戻った。

「あ、あ、親父が元に戻った!」

男は石化していた老人に抱きついて喜んだ。女も同様に老人のそばに駆け寄り気遣う。だがマナは疲れてしまったのかその場に座り込んだ。

「マナ、大丈夫か?」

ヘリオスはマナに駆け寄ると心配した。セレーネもマナを気遣う。

「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけだから、すぐに元どおりになると思う」

老人は二人から事情を聞いて、座り込んでいるマナの元へいき膝をついた。

「わしをもとに戻してくれて本当にありがとう。つい油断してあの通り石になっていました。助けて頂けなければわしはあのままずっと石になったまま元に戻れなかったと思います」

老人はシワだらけの手でマナの手を握った。マナは嬉しそうに体を左右に振った。

「良かったぁ。ところで僕たちこれからこの山をこえないと行けないんだけど、そんなに石化させるモンスターがいるの?」

それを聞いて女はびっくりしたように聞き返した。

「え?あんた達この山を越えるのかい?正気かい?あの通り石になるかもしれないんだよ」

それでもヘリオス達は頷く。

「でもそうしなければならないんだ。知の達人を追うために」

ヘリオス達が危険を承知で行こうとしていると知り、女は止められないことを察したようだった。

「それなら姉さん。俺達も途中までしか行けなかったけど、安全な道を教えてあげようよ。そうしないときっと石にされてしまうよ」

「そうだね…。ちょっと待って」

女はポケットから地図を取り出すと、それにルートを書き込みはじめた。そして細かい注意書きも添えてヘリオス達に渡した。

「はい、途中までだけどこれでいくらかマシな旅になると思うよ。でも危ないから、これも念のために持っていくといい」

そう言って女は首から下げていた笛を渡した。

「これは魔物の注意をそらすことが出来る笛だ。危ない時はこれを吹いて、魔物の注意をそらしたすきに逃げるんだ」

「ありがとう」

老人はマナやヘリオス達に深々と礼をした。

「こんなことしかできないけれど、あなた方の無事を祈っています。どうかご無事で」

トリノ一家はヘリオス達の姿が見えなくなるまでずっと見送っていた。

 

 

 

つづく

ただひとEP21-3

 

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