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小説 ただひと EP18 国王 ユトレヒト

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 

EP18 国王 ユトレヒト

 

 

 城の屋上までたどり着いたヘリオス達は、ようやく王を見つけた。

「国王!」

「アウダス!」

王は薬の小瓶を手にして緊迫した表情でアウダス達を見た。

「国民が主である私に歯向かった。そしてお前も私の手を噛んだ。その男たちと同じように」

王はルミエールらに憎しみと侮蔑の眼差しを向ける。だがそれにルミエールは反論した。

「この国の主は国民だ。今国民は自ら決断し自由をとり戻すために立ち上がった。ユトレヒト、もう終わりだ。権力を元の主へ返還しろ」

ユトレヒト、それは国王の名前だった。しかし、誰もが恐れ多くて名前を呼ぶ事を憚ってきた。だからユトレヒトはその名を聞いて、一瞬威厳ある国王の顔ではなく元のユトレヒトになった。

「ははは、その無法者は私の名を呼び捨てるのか。私が長年この国を守り統治してきたというのに、一言の礼もなく私に退けと、そう言うのか。だが言っておこう、そこの無法者。それは無理な話だ。この権力は我が手、我が力で守り育て上げたもの。まさに私そのものだ。一度捨てた者たちにこの価値などわかるまい。仮に取り返しても再び捨てるまでのこと。ならば私のような者がその力に天賦の責任を負いコントロールしつづけたほうがよい」

ユトレヒトは傲然といい放った。だが城は民衆に包囲され、兵士もみな一丸となって共闘している。今更かつての権力を振りかざした所でむなしいばかりだった。アウダスは彼の前に進み出てひざまづいた。

「陛下、これは最後の忠言です。城下から聞こえるあの声が聞こえますか?国民が今や一つとなって自分たちの自由と権利のために立ち上がっています。陛下、何故だかわかりますか。それは陛下の治世に耐えられなくなったからです。お願いです。これ以上の争いは無意味です。せめて、ご英断を」

アウダスの言葉にユトレヒトは身震いするように首を振った。

「この権力を手放す時はこの命も潰える時だ。愚かな国民に我が力をあけ渡せと?笑止!そんな事はさせぬ!」

王は薬を飲みほして震え始めた。そして手足が変異し始め、見る間に角がはえた鬼になった。

ユトレヒトは飛び上がるとマナを押しつぶした。

「マナ!」

全員がマナの名前を叫んだ。ユトレヒトに押しつぶされたマナは砂の山になっていた。

「マナ!」

セレーネが駆け寄り砂の山に触れた。

「まだ生きてる」

セレーネは手のひらからマナのエネルギーを感じ取り、杖を掲げて蘇生の魔法を唱えた。みるみる砂が一塊になり形を成し始める。

「ありがとうセレーネ」

マナはむくりと立ち上がった。だがまたユトレヒトがマナを攻撃しようとしたのでアウダスは力を溜めて剣でなぎ払った。ユトレヒトが剣圧で後ろへ下がる。そこへルミエールが斬りかかる。だがユトレヒトはそれを鋭い爪で防いだ。力と力がぶつかり合い拮抗する。

「今まで多くの仲間が激しい弾圧の中、自由のために戦ってきた。お前のために命を奪われた者も大勢いた。でも、ようやくここまでたどり着いたんだ。今こそ、今こそ!俺がみんなの分まで取り返す!」

「私をまるで悪魔のように言うのだな。だが私がどうやってこの地位につき力を得たのか知らないわけではなかろう。私は国民に望まれてこの地位についたのだ。国民は喜んで私に付き従い、強い支配の下で生きる事を望んだのだ。私を悪だと呼ぶのなら、その産みの親である国民をなんと呼ぶ。そして今になって私をこの座から引きずり降ろそうとはなんと身勝手な」

「お前は分かっていて、預けられた権力を簒奪し、ずっと握りしめてきた。国民を欺き続けた末の今の地位を正当化するのか。返せ、国民に!全てを!」

「連中は自ら望んで自由を捨てたのだぞ?それこそが暗愚な国民の実態だ。何故だか分かるか?お前は自由がもたらす苦悩を知らないだろう。自由には責任が伴う。これがもたらす苦悩と煩わしさに多くの者は耐えられない。強い者に寄りかかり、従う方がはるかに容易い。だから多くの国民は私に従うことを望んだのだ。この弱い性質を変えられると夢想しているのか?仮にまた国民が自由を得ても再びその重みに耐えかねて、自ら望んで隷属するようになるだろう。同じ事が繰り返されるだけだ」

ユトレヒトはルミエールの剣を弾き返し、鋭い爪で彼の胸に傷を刻んだ。ルミエールは血と痛みによろめいたが剣は手放さなかった。彼は首から下げたロケットを握りしめた。

「それでももう一度、自由の光の中で生きることを人々は選んだ。一度失ったことでその価値にようやく気づいたんだ」

アウダスも彼を加勢すべく、とどめを刺そうと振り下ろされた王の攻撃を防ぐ。

「国王、いや元国王。権力にしがみつき、人々を蹂躙するそんなあなたに俺はもう従うことはできない。最後はせめて人の姿になってくれ」

アウダスは最初、曲がりなりにも以前仕えていた主君に刃を向けることをためらっていた。だがその牙や爪が仲間たちを襲うのを見て何か吹っ切れたようだった。

そしてディオンが放った水の魔弾が命中し、更にヘリオスが側面から斬りつけた。

「生意気な」

ユトレヒトが二人の攻撃に気を取られている隙に、ルミエールが痛みをこらえて飛びかかり大上段から切りつけた。額に傷をおったユトレヒトはふらつき、反撃を試みようとするも、アウダスの剣がそれを止め、袈裟斬りにきりつけた。ユトレヒトはよろめき膝をついた。そして鬼と化していた姿がみるみる元へと戻っていく。

 元の姿に戻った王を見て、アウダスは反射的に駆け寄ろうとした。だがユトレヒトは止まれというかのように右手を前に出した。

「アウダス。私は王だ。それ以上近づくな」

ユトレヒトはふらふらと立ち上がると手すりをつかみ、そこから身を乗り出した。

「私がこの地位についた時、城下は歓声で包まれた。人々は私を支持した。そしてこの国は以前より豊かになったではないか。なぜ今になって国民は私を裏切ったのか」

ユトレヒトはかつての城下を思い返すかのように見渡した。全てが、まるで悪夢のように違っている。ユトレヒトは最後の威厳をふり絞るかのように胸をはり、ルミエール達を見た。

「私は王だ。貴様らのような下賎な者の手にはかからぬ」

そう言うと真っ逆さまに池へと落ちていった。

 全員が手すりから身を乗り出した。ルミエールも彼の最後の姿を見ようと目を凝らした。小さな水しぶきがあがった。

「王がいなくなった...」

ヘリオスが呟いた。

「これで自由がかえってくるのか?」

ディオンが尋ねた。それにルミエールが首をふる。

「いや、まだだ。大法典を甦らせるんだ」

ルミエールは国王だった男の最後の姿を見たかった。長い戦いの終わりをその証に求めようとする気持ちもあった。しかし彼はそれを抑えて自分を強いるように踵を返して屋上を後にした。

 その後遺体は上がってこなかった。ユトレヒトはそれで死んだのだと言われた。

 

 

「大法典がもし残されているのならたぶん宝物庫の奥にあるはずだ」

アウダスの情報を頼りに一同は地下へと急いだ。宝物庫への道は、特に厳重なトラップがいくつも仕掛けられていた。ヘリオス達はそれを辛くもやり過ごし、なんとか宝物庫にたどりついた。分厚い扉を開けるとそこにはこの国の宝がぎっしりと収められていた。中には略奪された美術品や政治犯から没収された財産の一部もあった。

「この宝は今後すべて人々のもとへ返そう」

ルミエールの言葉に皆がうなずく。そして宝物庫の一番奥の棚に大法典は埃をかぶって眠っていた。

「これだ。俺も見るのは初めてだ」

古びて黄ばんではいるものの、立派な紙が何枚も束ねられ、格式高く美しい文字がそこに刻まれている。

第一条は「主権は国民に存する」だった。ルミエールはそれを見て何度も何度もその部分を指でなぞった。

「本当だった。先生方の言っていた通りだ。主権は国民に存する。何でこの一文の意味を俺達の親世代は理解できなかったんだ。いや、俺達だってまだ完璧に分かっている訳じゃない。でもようやくまたここから始められる。長かった。国民に主権が戻ってくる」

ルミエールたちは眠っていた大法典を奪い返した。

 

 

つづく

ただひとEP19

 

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