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小説 ただひと EP16 誰に仕えるか

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 

EP16 誰に仕えるか

 

テントの中で、アウダスとディートリヒは兵士たちからの報告をただ黙って待っていた。アウダスは殆ど口をきかない。ディートリヒも彼の心中を察してあえて黙っている。テントの中は重苦しい雰囲気だった。

しばらくして外が少しずつ騒がしくなってきた。ディートリヒが不思議に思い様子を調べさせようと思った時、勢い良くヘリオスらが中へなだれ込んできた。

「将軍!」

ヘリオス…」

アウダスは絶望的な表情で椅子に腰かけていた。だからヘリオスらの顔を見て、この緊迫した事態にも関わらずなぜかほっとしたような表情になった。

「アウダス将軍、いえ、力の達人」

マティアがその場の空気を終わらせた。

「私の名はマティア。あなたに伺いたい。今城下で行われている蛮行、これはあなたの命令なのか」

「…そうだ」

今まで聞いたこともないほど無気力な声だった。

「ならば即刻やめさせるべきだ!あなたは無力な人々に剣を振り下ろすような卑劣な人間なのか」

アウダスは苦しそうな顔になった。

「これは、陛下のご命令だ…」

「分かった。ならば国王が間違っている。国王を止めよう」

「なに?」

アウダスはびっくりして聞き返した。

「これは道理だ。国家とは何か、それは一人一人の権利と自由を守るためにある。国軍とは何か、それは弱い国民を外の危険から守るためにある。その刃が最弱者である国民に向かうなど、あってはならない。いやしくも国の王などと名乗る者がそのような命令を下してはならない。そして国民を守るべきあなたがそのような間違った命令を受けてはならない。あなたは誰に仕えているのか!」

マティアの覇気に圧倒され、アウダスは完全に困惑している。

「誰に?…俺は…」

「王などと言ってはならない。彼は道理を理解しない。国家などと言ってごまかしてはならない。巨大な力を預かりながら無力な人々を手に掛けるなど、ただの狂気だ。法などと言って逃げてはならない。その法自体が一人の暗愚な男が気まぐれに作ったものなのだから」

「では一体俺は」

「将軍、あなたは何を守りたくてその地位に居るのだ」

「俺は…人々を…本当は…」

アウダスは絞りだすように言った。そしてマティアはその言葉を待っていたかのように畳み掛けた。

「人々を守りたい!それで結構!あなたが守りたいと思っている人々こそが、本当はこの国の主なのだ。逆に今の王はかつての主から権力を簒奪した謀反人にすぎない。私は知っている!時代の証人だ。私はどのようにして権力が簒奪されたかを見た。そしてかつての主が奴隷の地位にまで落とされていくのを見た!そして長い月日が経ち、ここに来てあの卑劣な男は本当の主を完全に貶めようと考えた!だから力の達人。はっきりと問う!あなたはどうしたい。盗人の側について、今後も人々を弾圧する重石となるのか。それとも、人々の側について、弱い彼らを守る盾となるのか!さあ、答えを聞かせて下さい。あなたはどう生きたいのか!」

アウダスは彼の言葉に戸惑っていた。心は決まっているのに、答えにならなかった。

「将軍、簡単ですよ。一番弱い人を守れない力なんていらないじゃないですか」

ヘリオスの言葉に彼は静かに頷いた。

「分かった…。ディートリヒ、全兵士に通達せよ!作戦中止!即刻引き返せ」

副官は彼の意志を一瞬でくんだ。

「かしこまりました」

力の達人の顔はようやくいつもの顔に戻った。先ほどまでの死人のような顔が嘘のように晴れ晴れとしていた。

 

 

 

つづく

ただひとEP17-1

 

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