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小説 ただひと EP11 自由の価値は 

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 

EP11 自由の価値は 

 

ヘリオスらのもとにもレジスタンスの隠れ家が壊滅したという知らせが入ってきた。

それを聞いた頭領とその部下たちは絶句した。打ちのめされたような顔になって黙った。しかし次第に誰からともなくすすり泣き始めた。

「泣くな!背筋を伸ばせ!彼女達は自由のために死んだんだ!」

頭領は他のメンバーを精一杯鼓舞しようとして言った。

「自由のために?」

牢の番をしていたヘリオスは不思議そうに首を傾げた。

「そうだ、お前ら権力の犬は笑うかもしれないが…」

「いや、俺は笑わない。それに俺は犬じゃない。俺はずっと不思議だったんだ。どうしてあんた達は捕まっているのか。人を殺したわけでも、盗みを働いたわけでもないのにどうして捕まっているんだろうって。そして、何で殺されないといけないのかって」

頭領とその部下たちは王命で遠からず処刑されることが決まっていたのだった。

頭領はヘリオスの方を向き、その目に濁りがないのを見て尋ねた。

「お前、いつから兵士になったんだ」

「ついこの前からだ。徴兵令で…兵士になったばかりだ。その前まで俺は野菜農家だった」

「…なるほど。そうだよな。お前の世代じゃわからないよな。おい、名前はなんて言うんだ」

ヘリオスだ」

「分かった、おいヘリオス。教えてやる。いいか、お前が生まれる前の話だ。昔、この国には王様なんて居なかった。国民とその代表しかいなかった。そして国民一人一人には自由があった。そして良心に従う権利があった。けれど与えられた自由、何の苦労もせずに得た自由だったから、国民のほとんどはその価値を全く理解していなかった。それ以上に自由に伴う責任や選択する労苦の方を惜しんだ。だからいつの間にかそれを大事に扱わなくなって、今の王が権力を持つ座についたときにあっさりと放棄する決断をしてしまったんだ。そしてその代償を支払うのは、そいつらじゃなかった。その時は生まれても居なかったお前たちのような世代が先代の尻拭いで今辛酸をなめている。おい、ヘリオス、お前は兵士になりたかったのか?どうして、紙一枚で命を危険にさらすような目にあわないといけないんだ。しかもどうして納得もいかないこんな任務についているんだ。それはお前

の良心に従って選択した結果なのか?どうなんだ!」

「俺は…本当は、兵士になんてなりたくなかった。家には母さんが一人居るだけで、俺は紙さえこなければ、ずっとあの村で畑を耕していたかった」

「なのに来た!でなければ処罰されるからだ。お前も、お前の家族も。そうだろう」

「…その通りだ」

ヘリオスはまっすぐに頭領を見た。頭領は感情のこもった目でヘリオスを見つめ返し、その肩を鉄格子の奥からつかんだ。

「お前のような、…良心に従えない人間がこの国には一杯いる。正しいと思った事を語る事は許されず、行動する事も許されず、正確な事を知る事すら許されない。財産は奪われ、名誉も破壊され、人生すらさじ加減で翻弄される。

…何故だ?俺達の人生だ。俺達には本当は自由がある。良心に従う権利がある。昔はそれを守る仕組みがあった。けれど当時の大人達がその価値も分からずに捨ててしまったんだ。俺はまだその時小さい子供だった。何もできなかった。けれどそのバカな決断があってから、あっという間に生活が壊れていったのだけは分かった。いや…生活が壊れたんじゃない…。人生から自由が奪われて、単に生きる事だけが残ったんだ…」

頭領は訴えるように続ける。

ヘリオス、俺達には本当は自由がある。自分の良心に従う権利がある!取り戻すんだ!この手で!だから、俺達は命がけで戦っているんだ。全てを失って、全てを剥奪されて、それでもまだ一つだけ残る権利、それが抵抗権なんだ!」

「けれど、そのやり方じゃ……死者が出る」

ヘリオスは言いにくそうに言った。まさに、頭領の仲間たちが沢山殺されたばかりだった。けれど頭領は意外にも冷静で静かな覚悟をもって答えた。

「そうだ。…死者は出る。けれど持たざるものが奪還を挑むんだ。生易しいやり方じゃ無理だ。言論で挑んだ人間すら沢山投獄されて殺された。何もしていない人間も、難癖つけられて人生を奪われた。だがヘリオス、自由はそれほど高いものなんだ!一度手放してしまったら、多くの犠牲を積み上げて、積み上げて…ようやく取り返すものなんだ!」

ヘリオスは頭領の話を聞いて、ようやくすべてのことが腑に落ちた。自分のことも。政府に対して戦いを挑む側の人間のことも。

だから彼は体制側の人間になるのをやめようと思った。

 

 

つづく

 ただひとEP12

 

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