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小説ただひと EP7 知の達人

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

EP7 知の達人

 力の達人の双子の兄弟である知の達人はあらゆる学問に通じた天才的な学者として知られている。力の達人とは二卵性双生児で、力の達人が黒髪なのに対し知の達人は非常に色の薄い白に近いベージュのような髪色をしている。見た目も性格も全く違う二人だが、その実非常に仲が良くそれぞれの不足を補うかのように以前はよく共にいた。けれど知の達人は最近力の達人と袂を分かち、大勢のモンスターを引き連れて国の各所に現れてはおかしなものを造ったり、壊したりするようになった。

力の達人は知の達人を止めるために王都から離れ、この街に駐屯していたのだった。
だから物資を補給し、部隊を整えると、すぐに出発した。
 神出鬼没な知の達人の居場所を予測することは非常に困難だったが、今回は街からそう遠くない場所に見たこともないモンスターが現れるようになったとの目撃証言が多数あがったため、副官の読み通りであれば知の達人はその先で何かを作っている。
 アウダスの副官は女性で、彼女は参謀のような働きをしている。非常に頭の切れる女性で彼女と論争になって敵う者はいないのではと言われている。名前をディートリヒと言う。なんでも彼女の両親は男の子が欲しかったばかりに彼女が産まれてもそういう名前をつけたのだという。青い瞳の涼やかな女性だった。

 街を出たアウダスは平地に兵士達を集めると言った。
「この平原の向こうにソロンが居る。我々の目的はソロンの動きを止め、モンスターを掃討し、人々を守ることだ。各隊、配置につき副官の作戦通り動け!いいな!」
ヘリオス達は力の達人の直属の部隊に配属されることになった。
 テントの中で副官のディートリヒは地図を出して皆に説明した。
「まず第二班から六班までの兵士が鶴翼の陣形で魔物たちを抑え交戦しています。アウダス将軍は左右に敵が気をとられている間に中央の敵を撃破しつつ突き進んでください。知の達人ソロンはおそらくそこにいます。巨大なゴーレムを従えているとのことですのでお気をつけて」
「わかった」
アウダスはマントを翻し陣を出た。
 平原を突き進む間に何体かの敵は現れたが、おそらくディートリヒの策にはまって左右に散ってしまったのだろう。大勢の敵に悩まされることがなかったので進軍は非常に速やかだった。ヘリオス達はアウダスとともに戦いながら、彼の圧倒的な強さを目の当たりにした。一閃、二閃、彼の刀がきらめくと魔物はすぐさま倒れてしまう。ヘリオス達が出る幕さえなかった。そしてその鮮やかな刀裁きは芸術的に美しくこれが若くして力の達人とまで称せられる人物の技なのかと見入っていた。

「なに?この音?」
セレーネが不安げに耳をすませた。遠くから地響きのような凄まじい音が周期的に聞こえてくる。これがディートリヒの言っていた巨大なゴーレムの足音なのかもしれない。一同は足音を頼りに進んでいった。
 しかし途中で巨大な空飛ぶ魔物が現れヘリオス達の進軍を阻んだ。翼を広げるとゆうに五メートルはありそうだった。爪は鋭く、黒と赤の羽毛で覆われてまがまがしかった。空飛ぶ魔物はヘリオス達を一歩たりとも進ませる気はないようで黄色い瞳で睨みつけてくる。
「ソロンはこの奥にいそうだな。なるほど、このモンスターを倒さなければ先に進ませてはくれなさそうだ。いいか、ヘリオス、ディオン、セレーネ。気を抜くな!」 
「はい!」
巨大な怪鳥は耳をつんざくような鳴き声をあげて襲いかかってきた。
 セレーネは呪文を唱え始め、ディオンは銃の照準を合わせる。空飛ぶ敵はヘリオスやアウダスのような剣士には不慣れな敵で、空からの攻撃をひたすらふせぐばかりだった。しかしセレーネの魔法が怪鳥を直撃し、落ちてきた。
「よし、いまだ!」
奇声をあげて落ちてきた怪鳥をすかさずアウダスが下段から切り上げ、さらに上段から剣をふるい大傷をあたえた。怪鳥は彼から逃れるように再び飛び上ろうとしたが、今度はディオンの弾が連続で命中し、再び地面に落ちてきた。そしてヘリオスとアウダスが怪鳥の急所に数回攻撃を加え、ようやく倒すことができた。
「ディオン、なかなかいい腕をしているな」
「まあ、猟師なんで」
以前無様な姿をさらしたのをずいぶん根に持っていた彼は、アウダスに褒められて少し誇らしげだった。
四人は怪鳥の守っていた先へと進んだ。
窪地のような場所で五十メートルはあろうかという巨大なゴーレムと複数の魔物が何やら法陣をかこんで巨石を配置して魔法陣を作っている。そしてよくよく見るとゴーレムの肩に人がのっている。アウダスは知の達人を見つけて叫んだ。
「ソローン!!」
「…アウダスか」
知の達人ソロンはその声でゆっくりと振り向いた。白い肌、薄い髪色。本当にアウダスとは全く違う。彼は膝まである長い髪を一つに束ね三つ編みにしている。手には身長ほどもある杖を持ち、知の達人と呼ばれる威厳を備えていた。
アウダスは坂を滑り降りながら叫んだ。
「そこから動くな。俺が今すぐそこまで言ってお前を止めてやる!」
「止める…か」
彼は悲しそうにつぶやいた。
「ソロン、お前…自分が何をしているのか分かっているのか?こんなに魔物を引き連れて、人々を恐怖させて、その上村を破壊して…」
「廃村だろ?」
アウダスはソロンの血の通っていない返答に一瞬言うべき言葉を失った。自分の知っている兄弟がまるで別人のように思えて彼は動揺を振り払うように首を振った。
「ソロン、どうしてこんな事をするんだ…!昔のお前はそんなんじゃなかったはずだ!どうして変わってしまったんだ!!」
「アウダス、私は同じだ…。心変わりなどしたことはない」
「じゃあ正気を失っている!俺が今すぐお前の目を覚まさせてやる」
ソロンは目を閉じて静かに首を振った。そしてゴーレムに合図してその場から立ち去ろうとした。
「待て!」
ソロンはもう振り返らず、代わりに杖を天にかざしてモンスターを召喚した。先ほどの怪鳥が三匹も現れた。
「私たちが立ち去るまでの間相手をするだけでいい」
ソロンは怪鳥にそう囁くと、ゴーレムたちとともに去っていった。
 知の達人が召喚した怪鳥のせいで、アウダスたちは足止めされ追うこともできず、ようやく倒した時にはもう知の達人もゴーレムも完全に見失っていた。周りにあふれていたモンスターも掃討したのかそれとも知の達人とともに消え去ったのかすっかり居なくなっていた。
アウダスはソロンがいなくなってしまった辺りを黙って見ていた。
そこに副官のディートリヒがかけつけた。
「将軍、掃討は終わりました。知の達人は?」
「逃がした。すまない」
「そうですか、仕方ありません。次の策をねるためにも今は一旦引き上げましょう」
アウダスは副官にそう言われ、「わかった」と言ってマントを翻した。
 ディオンは知の達人の強さに目を奪われていた。力の達人とはまったく違う戦い方をしていたからだ。呪文を唱え、杖を振りかざすだけで自分は何もせずとも敵を倒すことができる。ディオンはその姿を見て「なんて強いんだ」と感嘆していた。

 

つづく

ただひとEP7(2)

 

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