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小説ただひと EP5 力の達人

ネット公開版   小説 ただひと   作 蒼生

 

 

EP5 力の達人

三人は村を出ると道沿いに村から村へと歩きつづけ、時折野宿しながら国軍の駐屯地のあるフェディーナという街へ向かった。
 ヘリオスは街につくと巨大な外壁と門に驚いた。
「なんだこれ、すごいな!」
ディオンも同様で見上げるばかりだった。
 三人は門に近づくと門番に召集令状を見せてどこに行けばいいのか尋ねた。門番いわく、大通りを直進すれば国軍の宿舎があるという。言われた通りに歩きながら、彼らのいた村にはない豪華な装飾の施された馬車や立派な建物に田舎者のヘリオスとディオンは口を開けたまま見入っていた。セレーネはいつもと変わらずといった風で、逆に二人が滑稽ですらあった。
駐屯地につくとヘリオスとディオンは令状を見せた。
「ドートニクから来たヘリオスとディオンです」
「よし、入れ」
守衛が門を開き、二人は胸を高鳴らせて国軍の敷地に入った。セレーネは令状を持っていなかったのだが、今日だけは付き添いという形で入れてもらえることになった。
 駐屯地の中は、各地区から集まってきた若者達であふれ活気があった。皆ディオンのように胸に大志と希望を抱いているようで、その顔は明るい。ヘリオスのように不本意ながら来たという人間はあまり居ないようだった。それもこれも力の達人というカリスマ的な若き将軍のもとで働けるという事実がそうさせているのだろう。方々からその名前が聞こえてきた。
  ヘリオスとディオンは身体検査を経て、早速訓練場へと向かわされた。
 広場のようなところに多くの若い兵士が集められて、剣の打ち込み練習をさせられている。その中を責任者が歩いて筋がいい者を見つけると声をかけているようだった。
「今日はアウダス将軍がいらっしゃっている!皆全力で訓練に励むように!!」
アウダスというのは力の達人の名前で、その一言で広場は色めき立った。そして一層練習に気合が入った。
ヘリオスはまじめに剣の打ち込みに励んでいたが、ディオンの方はあまり真面目ではなかった。いい加減に打ち込んだり剣を落としたりしている。もともとガンナーの彼は剣で自分の力を見せようという気が最初からないのかもしれない。今はただ時間がくるまでチャンバラでもしていようという様子だった。

 アウダスは宿舎の二階から全員を見ていた。そして一人、非常に太刀筋のいい若者がいることに気づいた。
「あの若者は?」
「はい、今日来たばかりの兵士で、なんでも僻地のドートニク村から来たようです」
「玉は埋もれているものだな。あの男と手合わせがしたい。どの程度のものか見極めてみよう」
「は。かしこまりました」
 アウダスの部下から耳打ちされた訓練場の責任者は笛を鳴らした。
「皆の者、打ち込みやめ!」
そして責任者はつかつかとヘリオスの方へと歩み寄った。
「おい、お前。アウダス将軍がお呼びだ。その剣を持ってついて来い!」
「え!?は、はい!」
突然のことにヘリオスは驚いて返事をした。周りの若者たちが一斉に彼を見てざわめく。ディオンもそれを聞いてアウダスを一目見たいとヘリオスについていった。
 人垣の向こうに力の達人と呼ばれる若き将軍がいた。彼は甲冑と裏地が赤いマントを身に着けている。黒い髪と黒く鋭い目が印象的な人物だった。
 ヘリオスはアウダスの前に連れてこられあまりの存在感に圧倒された。そしてそんな彼に周囲の目が釘付けになっている。
アウダスは将軍という地位とは不釣り合いなほど気さくに声をかけた。
「遠くから見ていた。なかなかいい太刀筋だ。傭兵の経験でもあるのか?それとも」
「いいえ、自分は農家であります!身に余るお言葉光栄です!!」
「なに?本当か?」
アウダスはあっけに取られて聞き返した。
「なるほど、余程素質があるのだろう。よしその剣で俺に打ち込んでこい」
「え?ですが…」
「遠慮するな。来ないならこちらから行くぞ」
アウダスは剣を片手に打ち込んでくる。おそらく手加減をしているのだろうが、その素早さや非の打ちどころのない的確な剣の扱いはさすがというしかなく、ヘリオスは身を守るだけでも精一杯だった。しかし何回か彼の打ち込みを防いでいると、一瞬だけ彼にも好機が見えその瞬間彼は下段からの技を繰り出した。アウダスは驚いたというように一瞬目を見開いたが一歩退いてすぐに彼の剣を叩き落した。
「ふむ。なかなか見込みがある。お前名は何という」
「は!ヘリオスであります!」
ヘリオス、そうか。よし、ヘリオス、俺の直属部隊に入らないか。今は少しでも力が欲しい」
「え…」
ヘリオスは言葉に詰まった。観客となっていた訓練生たちは一斉にざわついた。そしてそれを聞いたディオンは人垣をかき分けて二人のそばまで来て言った。
「将軍!俺はヘリオスの友人です!俺も剣には自信があります!手合わせしてください」
アウダスは彼が腰に弾薬袋を下げているのを見てガンナーだとすぐに気付くが、ついでなので付き合うことにした。
「いいだろう。来い」
ディオンは必死で打ち込むが、それは力任せのものではたから見ても隙だらけだった。アウダスは数分間相手をしていたが、話にならないほど彼が弱いので見切りをつけて剣を叩き落とした。その瞬間ディオンは衝撃で前のめりになって足をつき転倒してしまった。
「人には向き不向きがある。ガンナーなら無理に剣術を覚えることもない。銃撃部隊に入れば、その腕も活かせるだろう。自分にあったやり方を探せばいい」
アウダスは剣を鞘におさめながら言った。
ヘリオスは倒れたままになっているディオンに駆け寄った。
「将軍!俺はここでディオンと一緒に頑張ります。せっかく誘ってくださったのにすみません」
「なに?」
アウダスは彼を見てその言葉を疑った。しかしその目がまっすぐだったのでようやく彼の意図を理解したのか頷いた。
「わかった。ヘリオス、お前の力は必要だ。仲間が居るなら共に来い。俺の部屋で待っている」
そう言うと彼は広場を去っていった。遠のく足音。ディオンは両手と両足をついたみじめな体制のまま歯噛みして「くそ…」と小さな声でつぶやき、さらに大きな声で繰り返し、地面を拳で殴った。
 アウダスの遠のく靴音が彼の胸に迫った。

 

つづく

ただひとEP6

 

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